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犬に予知能力があるかどうかは、わからないが、よくそういう話は耳にすることが多い。

何か大きなことが起こる前に、何だかわからないがやみくもに吠えていた、とか。

野良犬達が、群れをなして避難していた、とか。


わたくしが、飼っていた犬はどうだったか……。

ハナという犬は、おそらく家族の中で一番に父が大好きだったのだろう。

そういうことは身振りを見てもわかってしまうものである。


このハナという犬は、不思議なことに、父が車で帰ってくる数分前に、

なぜだか、それがわかっているらしい、ということが一回だけじゃなく、

たびたびあった。


あれ!?っていう反応があり、ちょっと待ってよ、やっぱり、あれ!?っていう反応がまたあって、

急にそわそわしだし、何故だか、気持ちうきうきしている様子で、尻尾をしきりにぶんぶん降り始めるのだ。

そして目の前にいる父以外の家族(わたくし含む)は置いといて、夜の外ばかり気にしている。

ひぃーん、くぃーん、と甘えなつくような声もあげるのだ。夜の外に向かって。


そんなハナの姿を見ると、はて、どうした?

と最初の頃は、わたくしも思っていたのだが、ああ、これは、もうまもなくどうやら父が帰ってくるらしい、ということを何度か経験するうちに、思うようなった。


そして数分後に、たいした高い確率で、ガラガラと玄関をあける音がして、

「ただいまー」と父が帰ってくる。


犬の嗅覚が並みはずれすぐれているから、わかってしまうんじゃないの? と指摘されればそれまでであるが、

父が家路をたどる十数キロ先、車を国道に走らせ、幾度となく交差点を曲がり、町内の道へと入り……わが家へとたどりつく、それだけある過程の前に、気づいてしまうというのは、やはり驚異的としか思えないのである。

また、それは、父が運転席のウィンドウをあけてはいられないであろう真冬の夜の寒空の日にも、たびたび起こっていたのだ。


好きな人が、もうまもなく、帰ってくる。

ああ、もうまもなく……。

ひぃーん、くぃーん。

そんな予知能力もある、みたい。



2012.11.10 polished