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床屋。

美容院があちこちに開店したという話は聞くが、新しい床屋が開店したという話はあまり聞かない(1000円床屋は別です)。

私は床屋の方が美容院より店主と過ごす時間が長く、贅沢な気持ちがするので、あえて近隣の床屋に行くことがある。

しかも床屋の方が安い。メニューもシンプル。店主のカットのみ。


美容院だと髪を切る美容師のランクづけがあったりするので、それが私にとっては、少々、重荷なのだ。スタイリスト、トップスタイリスト……云々かんぬん。


個人的には、おしゃべりな床屋は苦手だ。

できれば店主は寡黙に髪を切って欲しい。


しん、と静まった時間に小刻みに動かされるハサミ。

頭にはいくつものツボがあるので、切られる髪を引っ張られているうちに、うとうと眠くなってしまう。

まどろみの中、髪がしゃきしゃきと切られていく音を聞くのは、心地がいい。


目をつむったまま、頭の角度を変えられるため、強引にぐいっと顎をあげられたり、頭を横から、つんつん押されたりするのに、ただただ身をまかせる。


ときどき今の自分の髪がどこまで切られているか気になり、目を開けてさっと鏡を見るのだが、うっかり店主と鏡越しに目があってしまい恥ずかしくなり、またつむる。


椅子を大きく後ろに倒され、蒸しタオルが顔にのせられると、肩の力が抜けていく……もう無防備。

髭だけじゃなく顔のうぶ毛までも剃ってくれるのだ。美容院ではしてくれない。

鋭い剃刀を顔にあてられて、その時間、私は床屋の店主に命を預けることになる。


私が一番気になる床屋と美容院の違いは、


美容院が、あおむけに椅子を倒して、髪を洗うのに対し、

床屋では、前のめりになり髪を洗ってもらうところだ。


そもそも今でこそ、美容院に男子が行くことは珍しくなくなったが、もともと美容院は女性のためのものだったと思う。


男子は床屋。女子は美容院。

男子は、前のめり洗い。女子は、あお向け洗い。


そういう棲み分けが、きっちり出来ていた気がする。


今は多くの男子が美容院に行くようになり、曖昧になってしまった。


私はときどき、前のめり洗いが恋しくなり、床屋に足を運ぶ。