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「演劇見るか、寿司食うか」


寒空の下を歩いていくと、頼りなく薄暗い路地の先、ようやくぼんやりと劇場の看板が見えた。開演時間まではあと15分というところだ。にもかかわらず、わたくしはそのまま劇場へと一気に足を踏み入れることはせずに、立ち止まってしまったのだ。

それは通りに面して、ちんまりと店を構えた寿司屋があり、その店先では、おそらく女将であろう女人の手によって寿司の折詰が台に並べられ売られていたからである。

さば寿司、あじ寿司、つめあわせ八貫 金300円也

ぬらぬらと照りのある光物は、わたくしの大変な好物であった。
もし、この寿司を買い、どこぞの公園のベンチで座って食してしまおう、ということになれば、この辺りに土地勘のない、わたくしであるから公園を探しているうち、開演時間を過ぎてしまうのは明白である。

しかしここで寿司を買わなければ舞台が終了するのは9時過ぎということになり、劇場を出た頃には、すでに寿司屋は閉まっているかもしれず、あるいは寿司屋はやっていたとしてもせっかちな店主の意向により「もう時間も時間だしね」と折詰は引き下げられてしまっているかもしれない。

それでは寿司を購入し劇場に持ちんで、上演中はふところで大事に抱え、公演が終わり次第に食す、という考えも浮かんだのだが、小劇場といえど多少はぬくぬくと暖房が効いているのは当然のことであるから、ネタの鮮度が落ちていくことは必然である(酢でしめていても)。

いっそのこと上演中、客席で寿司をほおばってしまえば、との大胆な思いが頭をよぎるのだが、そろりそろり寿司を手に取って口に運んでいるところで、舞台で演技をする友人と運悪く目が合ってしまった際には(舞台で演じる知り合いと目が合うことは、ないようでいて不思議とけっこうあるものだ)、ただでさえ少ない友人がより少なくなるということは、容易に想像できる。

ではチラシなどで上品にくちもとを隠しつつ食せば、とも思うのだが、そんなことをしたとしても辺りに甘美な酢飯の匂いただよい「気鋭の作家・演出家の舞台において、こいつ寿司を!」と周囲に、よほどの豪胆な人物、あるいは挑戦的な人物、あるいはただのアホと思われてしまいかねないのは不本意である。

そんなことを二度三度と思い巡らし、劇場に入ったのは開演時間ぎりぎりというところだ。
舞台は考えさせられること多く、大変に興味深いものであった。

しかし上演中のところどころ、思いがかすめたのは、やはり、わたくしの胃におさめられることのなかった寿司のことである。