卒業論文に謝辞を載せました | 慶應通信で実学を学ぶ

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【第78期】2024年4月に文学部1類に入学しました。学びに終わりはありません。

 「卒業論文 謝辞」を一部修正してここに転載します。

 

 2019年末、中国湖北省武漢市という美しい商業都市から世界に拡散した新型コロナウイルス感染症は瞬く間に地球全体を覆い尽くし、世界に生きる人々の社会生活を一変させた。感染をめぐるさまざまな情報が飛び交い、人々の暮らしは混乱した。2020年5月には全世界で300万人以上の感染者と20万人以上の死者を出した。その頃には各国の対応は明確に違ってきた。韓国や台湾ではウイルス感染の封じ込めに成功し、世界に先駆けて日常生活と経済活動の再開の動きが始まっていた。

 しかしながらポスト・コロナの世界は以前と同じ暮らしが復活するとは思えない。米国では大統領選挙も視野に入る中でトランプ政権は中国に対する感染拡大の責任を追及するなど対立の構図をより先鋭化している。中西(2020)は「大規模な災害はその時の人間社会の対立構造を解消するよりは強化する性質をもつ」として天災によって社会資源が希少性を増し、その争奪が対立競争を激化させることを危惧する。

  そのような状況におけるメディアの重要な責務は、多元的で正確な報道に務め、対立競争を緩和させるという公共的機能を発揮することにあると思われる。しかしながら「ICT革命」という革新的な競争にさらされる新聞の購読率は年々低下し、その影響力は低下しつつある。

 新聞は、社会的弱者に対する情報セーフティーネットとしての役割をこれからも維持することができるのであろうか。新聞の軽減税率適用は国民の「知る権利」に奉仕する責任の遂行を期待するものであるが、そうした理念に対する理解が社会全体に行き届いているとは言いがたい状況にあるのではないかというのが本稿を書きはじめるきっかけであった。

 本稿を書き上げた今、消費税率引き上げを機に定価改定に踏み切った社とそうでない社がある。その事情はさまざまであろうが、これまで定価が横並びで、値上げのたび毎に同調的値上げという批判に晒されてきた新聞業界は明らかに変化しつつある。新聞を選択する判断材料の中に価格という選択肢が増えることは読者からすれば有益なことだ。今後は価格を含めた読者の満足度によって新聞はその質を問われることになる。

 

 本論文は慶應義塾大学経済学部通信課程の卒業論文である。今回の研究にあたって慶應義塾大学経済学部のT教授から2年を超える長きにわたってご指導をいただいたことに感謝の言葉を捧げたい。公共経済学の知見をもとに多角的な視点をご教示いただき研究の幅を広げていただいた。またゼミ形式による論文指導は校友の研究テーマにも触れることができ、和やかな雰囲気の中で多くの刺激をいただいた。独学になりがちな通信課程では味わえない得難い経験となった。

 

毎朝、玄関ポストから新聞を抜き取るところから筆者の1日はスタートする。そんな平和な日常が永遠に続くことを願っている。

 

          2020年9月 

             in Osaka City with COVID-19