★美術館レポート★
<現実を超えるための多重露光と現像>

数学と写真、一見すると遠く離れた分野を大胆につなぎ合わせた写真作品を発表した大西茂は、あまり知られていない芸術家です。しかし大西の歩みは、現代の写真愛好家にとっても刺激に満ちています。


幼い頃から数学が得意だった大西は、学校の勉強に飽きを感じる一方、易学や占い、心霊現象といった理屈では説明しきれない世界に強く惹かれていました。その関心はやがて「世界の説明できない部分を、数学で捉えられないか」という問いへと発展し、北海道大学で数学研究に没頭する道を選びます。


大西が写真と出会ったのは、芸術の世界に触れたことがきっかけでした。大西にとって写真は、現実を写す装置ではなく、矛盾した状態がそのまま成立する場でした。


幼い頃からの友人であり、学芸員でもあった小倉忠夫は大西を芸術の世界へ導き、評論家の瀧口修造は大西の写真を高く評価し、三度にわたって展示の機会を与えました。また大西は、数学を学んでいた評論家ミシェル・タピエと意気投合し、国際的な舞台へと紹介されていきます。


多重露光や80度や8度など極端に温度を変えた現像など、実験的な手法を重ねながら、どう写るかわからない偶然そのものを楽しんでいたといいます。時折現れる想像を超えたイメージに、大西は世界の根源─自身が論文で「超無限」と表現した概念の影を見ていました。


その一方で、大西は母の愛した生け花を自らもたしなみ、 花を生けることで季節の移ろいを楽しむことを忘れませんでした。作品づくりを通して人生を楽しんだ大西の世界と撮影技術を読み解くことができる展覧会です。


(本文中の写真は「大西茂 写真と絵画」の内覧会時に主催者の許可を得て撮影しています。)

■大西茂 写真と絵画
【会期】2026年1月31日(土) - 3月29日(日)
【会場】東京ステーションギャラリー
【休館日】月曜日[ただし2/23、3/23は開館]、2/24(火)
【詳細は公式HP】:https://www.ejrcf.or.jp/gallery/

■アートツリー出版社の投稿できる写真雑誌『PHOTOSAI』では展覧会情報を掲載しています。

 

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