現在、東京国立博物館で開催中の『創建1200年記念特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」』を観てきました。

 神護寺は京都の高雄にあるお寺です。和気清麻呂が私寺として建立した高雄山寺が前身で、それを弘法大師こと空海が別の場所にあった神願寺と合併させ、824年に神護国祚真言寺と改名したのがはじまりだそうです。以後は真言宗の本山として信仰されてきました。

 なにしろ歴史が1200年あるわけですからお宝満載です。本尊の薬師如来立像はじめ国宝17点、重要文化財2833点を所蔵しているそうです。並の美術館・博物館は足元にも及びません。

 本展ではその本尊たる薬師如来立像はじめ、めったに拝むことができない国宝『両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』など、レア度満点のお宝を観ることができます。


本展ホームページより

 『両界曼荼羅(高雄曼荼羅)』は現存最古の曼荼羅図です。金剛界曼荼羅と胎蔵界曼荼羅のニ図からなり、いずれも縦横約4メートル四方の巨大な作品です。1200年の時間により相当に傷んでいましたが、6年間の修復作業を経て今回始めての展示となります。傷みはありますが紺紫地に今もなお輝く金銀の線が残っています。

 両界曼荼羅は大日如来の慈悲の世界と教えを図像化したものです。いわば真言宗の核心ともいえます。たしかに巨大なこの図像はそのまま私達を包みこむ世界のようです。両界曼荼羅を前にした人々は、大日如来の慈悲を受け、ますます信仰を深めたことでしょう。
なおこの両界曼荼羅は前後期差し替え展示になっており、現在はすでに後期展示になっています。

 さて、もうひとつの目玉が国宝《薬師如来立像》です。神護寺の本尊たる貴重なお姿をこんなところによく持ってこれたものです。と思ったら、現在台座を修理中だそうです。立つところがなくては仏様も困るだろう、ということで今回の出張になったそうです。

 その雄姿で特徴的なのはお顔です。通常仏様というのは慈悲の心で私達を迎えてくれるものですが、こちらの薬師如来像は薬師如来像とは思えぬほど厳しい表情でこちらを見つめているのです。唇などへの字で怒っているのかと思うほどです。




 そもそも大日如来を本尊とする真言宗で薬師如来が本尊というのは変な感じもしますが、もともとこの像は神護寺の前身である高雄山寺または神願時にあったものを空海が据えたとか(諸説あり)。であるとするながら、厳しい修行が必要な真言宗のために、厳しく修行者を見つめる御仏にふさわしいと考えたのかもしれません。

 このほか興味深かったのは、三筆にもあげられる空海直筆の《灌頂歴名》です。灌頂とは密教で継承者に授ける儀式のことで、その出席者名簿を空海自ら書いているのです。その筆は自由闊達な線でありながら、今見ても読みやすいことに驚きます。この《灌頂歴名》の筆頭に挙げられているのが天台宗の開祖、最澄です。最澄は空海のお弟子さんだったんですね。その最澄の字もありますが、こちらは四角四面の非常に几帳面な字です。おそらくこの二人は性格も正反対だったんじゃないでしょうか。だからこそ空海は筆頭に最澄をあげたような気がします。

東京国立博物館
『神護寺』展は9月8日まで開催中です。なおすでに後期展示になっています。
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