現在、SOMPO美術館で開催中の『ロートレック展 時を掴む線』展を観てきました。本展はロートレックのコレクターとして名高いフィロス夫妻のコレクションを紹介する展覧会です。夫妻の所有する作品約300点のうち約240点ということですからほとんど全部です。なんとも太っ腹なことです。



 そのコレクションの特長は素描つまりスケッチが多いということです。本展には保存状態のよいポスターも何点か展示されていますが、展示の8割がたは素描です。なんだ素描か思うことなかれ。ポスターは複製芸術なので同じポスターがこの世に何枚も存在しますが、ロートレック直筆の素描はこの世に1点限りです。また本展の案内でも紹介されているように、ロートレックは「線の画家」でした。そのロートレックの「生」の線が味わえるのが素描なのです。

 その素描作品を見るとほとんどが人物画です。当時のパリの歌手や俳優、コメディアン、支配人、芸人などをロートレックは描いています。ロートレックはこれらの人物を描く時、美化していません。それぞれの個性がくっきりと浮き出るように、カリカチュアやデフォルメして描いています。実際の写真と比較しても、ロートレックが実に上手に特長を救い上げていることがわかります。言ってみれば風刺画の登場人物のように描いているため、描かれた本人の中には、ロートレックの絵が気に入らない方もいたようです。



 ロートレックにとって素描はカメラで写真を撮るのと同じようなものだったのでしょう。今の自分の目に映った対象の人物の一瞬の表情、動きを、切り取るように素描を描いているように私には思えます。

 本展ではこのほか、ロートレックが手掛けた挿絵や版画、招待状、メニューなどさまざまな印刷物が展示されています。これらを見るとロートレックは今でいうグラフィックデザイナーやイラストレーターの魁だったことがわかります。実際、印刷にも立ち会って自作をチェックしていたそうですから、現代のアートディレクターとなんら変わりはありません。

 ちょっと興味深かったのは、伯爵家に生まれ、それだけ仕事をしていたのにも関わらず、晩年は生活に窮していたらしいことです。本展の最後では母親にお金を無心する手紙がありました。ロートレックの生涯にまた興味がわいた展覧会でした。

SOMPO美術館
『ロートレック展 時を掴む線』は9月23日まで開催中です。
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