現在、京都市京セラ美術館で開催中の京都市美術館開館90周年記念展『村上隆 もののけ 京都』。今回は見どころをお届けします。



 まず会場で私達を迎えてくれるのは、村上隆展ではおなじみのこの巨大な阿吽像です。この像は東北大震災をきっかけに、災害から人々を守る願いで制作されました。恐ろしい形相は魔に向けられています。



 そこを通り抜けて中庭の池の中に立つのが、これまた巨大な『お花の親子』です。あまりにも巨大すぎて京都の風景とミスマッチなのでが笑えてくるほどです。しかもヴィトンのトランクの上に乗っています。このヴィトンのトランクはいったいいくらするのでしょう。



 『洛中洛外図』の次に待っているのが、巨大な空間の四方に描かれた『四神と六角螺旋堂』です。四神つまり、青龍、白虎、朱雀、玄武を東西南北に描くことは、古来より神獣に守られた空間を意味しました。それはまた京都の見立てでもあります。



 この展示室、四方は真っ黒な壁なのですが、実はここにも髑髏が刻印されています。しかもご丁寧なことに床にも施されています。死がサブリミナルに私達を囲んでいるのです。



 私的なハイライトはこのやはり巨大な『雲竜赤変図』です。本来のタイトル《雲竜赤変図《辻惟雄先生に「あなた、たまには自分で描いたらどうなの?」と嫌味を言われて腹が立って自分で描いたバージョン》》とあるように、美術史家・辻惟雄さんにけしかけられて描かされたという曰く付きの作品です。本展のほとんどの作品は村上さん自身の手によるものというより、村上工房制作なわけですが、本作は全て自筆です。よっぽど辻井さんにチクチク言われたんでしょうね。だったら描いてやるわい、とばかりに大画面に挑んだというわけです。しかしさすがに村上隆、これだけの大画面を堂々と描ききっています。迫力満点です。ただ真ん中の龍の顔がなんとなく「これで勘弁してくだせえ」というような情けない表情をしているのは気のせいでしょうか。それとも村上さんの韜晦が漏れているのでしょうか。

 ここまで述べてきたように、本展に展示されている作品の多くは日本の伝統的な文化からインスピレーションを得ています。村上さん自身、自作を称して「日本の芸術の歴史と現在をミックスしたもの」と述べています。京都という日本の伝統文化のど真ん中で、自作と日本文化の関わり合いと現在地点をもう一度確かめようというのが本展にこめた村上さんの意図なのでしょう。

京都市京セラ美術館
『村上隆 もののけ 京都』
は9月1日まで開催中です。
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