気がつけば残り会期も少なくなってきました。現在横浜美術館で開催中の横浜トリエンナーレ「野草:いま、ここで生きてる」を観てきました。

 はじめに。横浜トリエンナーレはタイトルにあるように3年に1度開催される現代アートの祭典です。今回が8回目の開催となります。前回第7回は2020年だったのですが、間にコロナ禍をはさみ4年ぶりの開催となりました。さらにこの期間、主会場であった横浜美術館がお化粧直しのため休館となり、横浜美術館自体も3年ぶりのお披露目です。なお横浜トリエンナーレの主会場は横浜美術館ですが、二部構成になっており、市内の各拠点に「アートもりもり!」の名称のもと、関連展示が行われています。今回は横浜美術館の展示に限ってご紹介します。

 さてその横浜美術館での展覧会「「野草:いま、ここで生きてる」ですが、いろんな意味で本展の アーティスティック・ディレクターであるリウ・ディンとキャロル・インホワ・ルーのカラーが強い展覧会だと思いました。

 もちろんこの主のアートフェアでキュレーターやディレクターのカラーや方向性が色濃くでるのは当然なのですが、実際に私達が目にするのはアーティストの作品です。そこではアーティストのメッセージが先に立つはずです。しかし、そこにもディクターの意図がかなり強く感じられます。単に有名アーティストを並べた展覧会ではなく、二人が特定の意図のもとアーティストを集め、特定の意図に基づいて展示している、骨太のメッセージ色が強いアートフェアなのです。



 一例が、このトマス・ラファの作品とジュシュ・クラインの作品の展示です。トマスの作品は極右主義者の難民反対デモのドキュメント映像です。一方クラインの作品は弁護士や管理職のマネキンが透明なゴミ袋に入れられ捨てられています。最初観たときは一人の作家の作品かと思いました。実際は別々の作家の別々の作品なのです。

 通常の展覧会ではこのような展示はしません。アーティストの独立性が損なわれるからです。しかし二人の作品を合わせて展示することによって、ディレクターの二人が人間の疎外や対立を表現しようとしていることは明白です。

 また本展のタイトル「野草」にも本展にかける二人の思いがあります。これは日本と中国、両国に大きな影響を与えた魯迅の詩集のタイトルから取られているからです。魯迅の『野草』は本会場のちょうど中央、すべての展示の核となる位置に置かれています。本展が日中のかけ橋になることを二人は願ったのでしょう。



 その象徴が李平凡です。李は中国天津で生まれ日本に渡り版画を学びました。日中双方からスパイ容疑をかけられるなど苦難の人生を歩みながら、李は再び日本で版画を広めています。李のように芸術が人々をそして日中をつなぐことを二人は信じているに違いありません。



 そして本展に込められたメッセージは、会場に入った時最初に私達を迎えてくれるこの「日々をいきるための手引書」にあります。過去・現在を振り返り「未来を切り開く手がかり」を提供したいというのが二人からのメッセージなのです。

横浜美術館 横浜トリエンナーレ
「野草:いま、ここで生きてる」は6月9日まで開催中のです。残りわずかですのでお早めに!
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