現在、渋谷区立松濤美術館で開催中の「没後120年 エミール・ガレ展 奇想のガラス作家」を観てきました。



 ガレといえば何と言っても華麗なガラス工芸です。本展でももちろん数々の見事なガラス工芸品を観ることができます。

 作品そのものも美しいのですが、私が興味を惹かれたのはその技法でした。何しろ次へと次へと技法が繰り出されるのです。例えば、半透明のエナメルで描くエモービジュー技法、グラヴェール彫刻、マルケトリー(象嵌)、パティネ(古色付け)などの絵や模様を描く技法の数々。「悲しみの花瓶」といわれる黒玉滴石(ハイヤライト)、酸化コバルトを使った淡青色の月光色グラス、ガラスの着色にウランを使った淡緑色で蛍光色に光るウランガラスなどの様々なガラス素材の数々。それらのガラス素材を何層にも組み合わせて、様々な技法を駆使して奥深い世界を表現しています。立体的で奥行きもあり、ある意味絵画芸術を超える芸術作品になっています。



 描かれるモチーフも実に様々です。一例を上げると、トンボ、セミ、チョウ、ガなどの昆虫類から、睡蓮、菊、ヴェロニカ、アラベスクといった植物などなど。中には元ネタが北斎の絵だとはっきりわかるカエルの絵などもあります。

 ガレは自宅に6000坪の庭園を持ち、ナンシー市の中央園芸協会の事務局長を努め、植物学者だったそうです。それはもう元ネタには困らなかったでしょう。実際ガレ自身も「身近にある野菜がいくらでも豊かな芸術の材料を提供してくれる」と語っています。

 ガレがこれだけの技法、材料、モチーフをフル活用して目指したのは、絵画芸術にも勝るとも劣らないガラス工芸を極めることだったのでしょう。事実、それまでは「工芸」としてしか位置づけられなかったガラス工芸を最高峰の芸術作品にまでに高めたことがよくわかる展覧会となっています。

松濤美術館
「エミール・ガレ」展は6月9日まで開催中です。
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