現在公開中の松村北斗さん、上白石萌音さん主演の映画「夜明けのすべて」を観てきました。原作は瀬尾まいこさんの同名小説です。

 PMS(月経前症候群)を抱える美紗とパニック障害を抱える孝俊。小さな町工場に務める二人は・・・、

 こんな風に書き出したら、そうか二人のラブロマンスが始まるのかと思ったあなた。私もそう思いました。でもこの映画はそんな映画では全くありません。そしてそんな映画では全くないところが、この映画の、というより原作小説の素晴らしさです。例によって私は未読なのですが。

 メガホンを取った三宅監督もまた原作小説の素晴らしさを自身の映画表現という領域で伝えたいと思ったのでしょう。小説には行間という余白があります。三宅監督はその余白を映像に置き換えることで、鑑賞者に想像を委ねています。映画の1シーン1シーン全てに、なぜこのシーンが必要なのか、なぜこの長さが必要なのか、厳密に計算されています。それが日常的な生活を映しながらも画面の緊張が途切れされない要因となっています。

 松村さんと上白石さんは、デリケートな役柄を静かに演じています。上白石さんはPMSの時とそうでない時のギャップが素晴らしい。松村さんは上白石さんとの会話で生じる間がさりげなく心地良いのです。恐らくですが、お二人はPMSやパニック障害を抱える方のお話を聞いたのではないでしょうか。役が憑依したかのように見えるからです。

 この映画は生きづらさに関する物語です。主人公はPMSとパニック障害を抱える二人ですが、まわりの人物も何かしら生きづらさを抱えています。ただお互いがお互いを少しずつ気づかいながら生きています。

 私は今のところパニック障害でもPMSでもありません。しかしそうではなくても、また誰にでも夜の闇は訪れることがあります。映画では夜もまた人生の糧になるのだと伝えたいようです。

 そして、いずれは夜明けは来るでしょう。この映画のタイトルの「夜明けのすべて」は、すべての人にやがて夜明けは来るのだ、という原作者の希望を表しているのだと私は思います。

 映画を観ている間はそうでもないのですが、観終わってふりかえってみると、じわりとくる映画です。今生きづらさを抱えている方にも、抱えていない方にも観ていただきたい映画です。
240213