現在、泉屋博古館東京で開催中の「うるしとともに くらしのなかの漆芸美」展を観てきました。
実は「漆芸美」と言われても、最初は興味がソソられなかったんですよね。それが見に行く気になったのは「アート・テラー・とに~」さんのブログがきっかけです。
そのきっかけがこの《花鳥文蝋色蒔絵会席膳椀具》です。全部で30名分あるという祝席膳のセットです。この膨大な膳とお椀の一揃いですら一部にすぎません。見たところこれで10人分のようでしたから、総量はこの3倍ということになります。
これを入れる箱ですら、このデカさです。大阪の豪商の底力がもう目で見てわかります。
ひとつひとつのお椀や膳にも隈なく蒔絵が施されています。これが勢揃いした宴席はさぞかし華やかなものだったでしょう。
会場でいいなあと思ったのがこの《唐草文梨子地蒔絵堤重》です。ピクニック用のモバイルお弁当箱なんですね。四段のお重に酒の肴を詰め、右側の徳利にお酒を入れたら、楽しい酒宴がどこでもできます。1個ほしいぐらいです。
こうした漆工芸の名品がたくさん並んでいるわけですが、私的には「彫漆」のコーナーに注目していただきたいのです。
「彫漆」とは漆を何層にも塗り重ね、その表面を彫って文様刻む技法です。先日観た「バカ塗りの娘」でもやっていましたが、漆は出来上がるまでに何層も塗り乾かし磨く、という工程を繰り返します。ミルクレープを思い出してもらえればいいでしょう。
その薄い層を「彫れる」厚さまで重ねるわけですから、とてつもない手間と時間がかかるはずです。しかも作品の中には漆の色を塗り替えることによって、層ごとに色が違うものもありました。「屈輪文」と呼ぶそうですが、バカを通り越してクレイジーとしか思えません。
さすがにこんなに手間がかかることはやってられん、ということで木を彫って、層の部分だけ色塗りした「木彫漆」という、なんちゃって彫漆の作品もあるのが面白いところです。
他にも酒井抱一がデザインした漆の器の絵と、そのデザインどおりに仕上げられた漆茶器があったり、十種香箱というお香のゲームを楽しむためのツールキットがあったりと、見どころがたくさんありました。
泉屋博古館東京
「うるしとともに」展は2月25日まで開催中です。
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