現在公開中のヴィム・ヴェンダース監督、役所広司さん主演の映画「PERFECT DAYS」を観てきました。
東京のある平凡なトイレ清掃職員の平凡な日々。
この映画のイントロダクションを書こうと思ったら全部の紹介になってしまいました。そういう映画なんです、この映画は。
ふつうの映画会社だったら、この映画の企画はまず通らないでしょう。なにしろ、
「役所広司さんが毎日トイレを掃除をする映画?気は確かか」
「そんな映画を誰が見たいのか」
「そもそも役所さんがそんな映画のオファーを受けてくれるわけないだろう」
しかし出来てしまいました。
この映画は元々東京都が推進するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」がきっかけだったそうです。最初にトイレありきなんですね。
この映画の恐ろしいところは、ただ単にトイレを掃除するだけの男の話で124分持ってしまうところです。映画を観終わった方の話では寝落ちしそうになった方もいらっしゃるようですが。少なくとも私は最後まで面白く見ることができました。
これはヴィム・ヴェンダースの監督術の冴えと、役所広司さんの存在感によるものです。映画としての完成度は高いのです。あと音楽のセンスも抜群です。
映画の画角は4対3、つまり昔のスタンダードサイズで撮影されています。これは恐らく、小津安二郎監督の「東京物語」などに対するオマージュであり、ヴェンダース監督なりの返答あるいは返礼であると考えられます。
最初に書いた通り、本当に平凡な日々なのですが、観終わったあとは、不思議とスッキリサッパリした心地になれます。それはまるで鑑賞者の心もトイレ清掃してくれたみたいです。それは、この映画が一種のファンタジー、おとぎ話だからでしょう。
一見、リアルに描かれているように見えますが、この映画からは不必要、不要なものは色々と排除排斥されています。トイレ掃除なのにちっとも汚く見えないことがその一例です。
主演の役所さんがカンヌで男優賞を受賞したのも当然でしょう。何よりも役所さん演じる平山の眼の輝きです。この男は平凡な日々の中、死んではいません。毎日を輝かしく生きています。眼の光にそれが現れています。
240109