残念ながら昨日で終了してしまったのですが、太田記念美術館で開催されていた「深掘り!浮世絵の見方」を観てきました。本展は浮世絵制作の裏側に隠された鑑賞の「ツボ」を紹介する展覧会です。

 浮世絵というと、本展でも展示されている、葛飾北斎や歌川広重、喜多川歌麿といった絵師たちの名前が浮かびます。実際には、絵師が直接携わっているのは完成した浮世絵の下絵(版下絵)だけです。その絵をもとに彫師が木版を掘り、摺師が色刷りします。総合芸術なのです。



 葛飾北斎の「冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏」では、8つの木版、8つの色が重ねられています。高画質グラビア印刷なんですね。

 また彫師の技術も見どころです。「毛割」という毛を掘る技術では、わずか1mmの中に3本の毛を描いています。文字は一文字の大きさがたった5mm角。しかも凸版印刷なので反転文字で彫り抜いています。すごいテクですよね。

 私が勉強になったのは「ベロ藍」についてです。「神奈川沖浪裏」にも使われているこの色は、18世紀のベルリンで造られた合成顔料です。それがわずか100年ばかりで日本にも届いているのですからすごいことです。ちなみにベルリンで造られた藍色だから「ベルリン藍」、ベル藍、ベロ藍に転じたそうです。

 それまで藍色は植物の藍やつゆ草から造られていました。その頃の浮世絵を見ると、藍も渋めの藍です。またグラデーションが効きにくく、藍か白かの二値になっています。

 それに比べてベロ藍は水溶性で、発色も鮮やか、グラデーションもきれいです。このベロ藍がなかったら、傑作「神奈川沖浪裏」は生まれていなかったでしょう。

 そのほか浮世絵の版元や押印についてなど、確かに浮世絵の見方が深まる展覧会でした。

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