現在三井記念美術館で開催中の「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」展を観てきました。本展は金工、木工、漆工、陶磁、刺繍、ガラスなどの分野の作家17名の作品を紹介する展覧会です。

 最初舐めてたんですよね。私も色々美術展の作品は観ているので、超絶と言ってもアレぐらいの認識だったのです。ところが本展の作品はいずれも予想の斜め上をさらに上行く凄い作品ばかりでした。



前原冬樹『《一刻》スルメに茶碗』
 美味しそうなスルメです。焼いたら香ばしそうです。これは練達のスルメ職人の技ものかと思えばさにあらず。木彫りです。木でできています。しかも一木造という、一枚の木を彫って作ったものなのです。ご丁寧なことに頭の先についている金具まで木です。見れば見るほどスルメにしか見えませんが。



稲崎栄利子『Amrita』
 卵をいっぱい抱えたタコかイカのような物体は陶器です。非常に小さな輪を編んだような構造をしています。稲崎さんの他の作品では、陶器でありながら曲げたり捻ったり、果ては折りたためるものまで存在します。一体どうやって作ったのでしようか。

 タイトルのAmritaとはインドの霊薬のことだそうです。たしかに神秘的な力を秘めていそうです。



大竹亮峰『月光』
 大輪の白い花びらは鹿の角でできています。角とはいえ、向こう側が透けて見えるほど薄いのです。しかもこの作品は水を注ぐと花びらが開くそうです。もはや生きているとしか思えません。



池田晃将『電光金針水晶飾箱』
 宇宙から飛来した隕石でしょうか。割って見ると断面には未知の輝石が閃光を放つように輝いています。妖しげなエネルギーを持っているかのようです。

 この物体の正体は輝石ではありません。石ですらありません。木曽檜を漆塗りしたものなのです。輝く細片は貝を配置して漆を塗り研ぎ出したもの。蒔絵なのです。空恐ろしいほどの輝きは研ぎ重ねて生み出したものなのでしょう。

 このようにちょっと常軌を逸したとしか思えない超絶技巧の作品がこれでもか、と言わんばかりに展示されています。タガというかネジがぶっとんでるとしか思えません。



若宮隆志『「ねじが外れている」モンキー、工具箱、ねじ』
 創っているほうも、ねじがはずれているという自覚があるらしく、この作品では自虐的なタイトルになってます。これも漆工なのですが、なせ漆塗りで、錆びた工具箱とスパナとネジを作らなければならないのでしょうか。明らかにネジが外れています。

 とまあこのように目を驚かせる作品が並ぶわけですが、私はそのまま素直に感動したかと言うとちょっと違うんですよね。それぞれの作家の方々の超絶的な技巧はよくわかりました。ここまで技巧を極めるには尋常ではない気力体力精神力が必要でしょう。そのことには敬意を払います。しかし木でスルメを彫り、錆びた工具箱を作る意味が私にはピンとこないのです。何か力の注ぎ方を間違っている感じがするんですよね。それが面白いのかもしれませんが。

三井記念美術館
「超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA」は11月26日まで開催中です。
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