現在、泉屋博古館東京で開催中の『楽しい隠遁生活 文人たちのマインドフルネス 絵画と工芸に見る「自娯遊戯」の世界』を観てきました。

 中国の美術を勉強していると必ず隠遁生活への憧れが出てくるんですよね。中国の山水画はたいてい人跡未踏の険しい山や崖が描かれているのも、そういった荒々しい自然の中に身を置きたい、という気持ちがあるようです。

 中国の昔の人が今で言う「FIRE(早期退職)」して、悠々自適の生活を送りたいと思ったわけではないようです。欲望に満ちた現世=俗世への未練を断ち切り、厳しい自然の中に身を委ね、精神的な理想郷を求め、隠者、隠遁、高士に憧れたのです。

 本展にはさまざな山水画、風景画が紹介されていますが、山奥の小屋や滝の傍らには隠遁者がいて、酒を酌み交わしたり、お茶を飲んだり、ただただ滝を眺めたりしています。きっと東京にいて田舎暮らしに憧れるようなものなのでしょうね。煩悩まみれの私には難しそうです。



 そんな私ですので並み居る高潔の方たちを差し置いて最も好きだったのは小田海僊の《酔客図巻》でした。はじめはシラフなのに酒がすすむにつれて酔っ払いの度合いがまし、「えーもう酒ねーのか」「まだあるだろう」「もっと酒をくれ」「お前らもう飲み過ぎだ」と酒飲みの声が聞こえてきそうです。終いには全員へべれけという体でした。まあこれが私の理想郷に最も近いかもしれません。

泉屋博古館東京
「楽しい隠遁生活」は
10月15日まで開催中です。
230927