現在、新宿歌舞伎町で開催中のChim↑Pom from Smappa!Group(以下Chim↑Pom)のイベント「ナラッキー」を観てきました。

 これまでも都市と根付いた活動を続けてきたChim↑Pomが今回選んだのは、新宿歌舞伎町のど真ん中に立つ妖しいビルでした。その名も玉城ビルです。



 もう見るからに妖しい雰囲気がプンプンしています。Chim↑Pomのイベント会場として、これ以上似つかわしい建物はないでしょう。この建物はかつて喫茶、キャバレー、カラオケ店、 居酒屋が入居していたそうです。この度、任意団体「歌舞伎町アートセンター構想委員会」が発足し、このビルをアートのハブとして活用することになったそうです。その記念すべき第一弾がChim↑Pomというわけです。

 正面ファサードも妖しいのですが、本イベントの入り口はこちらではありません。隣の歌舞伎町弁財天を回り込んだ裏口が入り口なのです。妖しすぎてとても入り口とは思えません。事実、私が行った時も、どこが入り口かわからず迷っていた人がいたぐらいです。

 その妖しい入り口を入ると中はほぼ廃墟です。壊れかけた建物の2階へあがるとそこには本展のモチーフともなった「奈落」があります。これは5階建ての建物をぶち抜いた空間です。それは空(天)から落ちてきた何かが地獄に落ちた空間のようです。



 この「奈落」のまわりの部屋では「The Making of the Naraku」として、「奈落」で行われた様々なパフォーマンスが紹介されています。演じるのはドラァグクリーンや車椅子ダンサー、ポールダンサーなどの方々です。

 車椅子ダンサーのかんばらけんたさんは建物を脊椎に重ね合わせていました。私がこの展示を見て感じたものも、人間の身体性というか内臓性でした。この空間にいると、何ものからの腹の中にいるような感覚がしたのです。それはまるで怪物Chim↑Pomの体内めぐりをしているような感じでした。



 4階は無料のカラオケコーナー「神曲」。このなんとも昭和なステージがたまりません。ここでは全員カラオケ歌い放題、アルコールも用意されています。私が行ったのは昼間だったのでそうでもなかったのですが、夜行くと面白そうです。



 そして屋上にあがると、この「光は新宿より」。これはあのTOKYO2020と同じように、青写真でできた看板です。夜になるとここからサーチライトの光が空まで伸びるそうです。しかしこれで終わりではありません。



 屋上から一気に地下まで降りると、そこにはこの世の終わりが待っています。タイトルは「Asshole of Tokyo」。あえて日本語には訳しません。ここには「餌」と称する水槽が置かれています。中にいるのはドクターフィッシュ!。参加者はここで自分を餌としてドクターフィッシュに捧げることになるのです。ドクターフィッシュは1階の人間レストランで実際にメニューとして提供されているそうです。

 申し遅れましたがタイトルの「ナラッキー」は英文表記では「Na-Lucky」。「奈落」と「幸運(ラッキー)」を掛け合わせた造語です。それは奈落=地獄と幸運=天国をあわせもつ新宿を表しているように私には思えました。

 本展で何よりも素晴らしいのは、美術館でもギャラリーでもない廃ビルを一棟まるごと舞台としていることです。この中に展示作品を持ち込み、セッティングするのは、安全対策なども含めると、尋常じゃないエネルギーと労力が必要だったはずです。多くの方の協力も不可欠でしょう。それを成し遂げたChim↑Pomのみなさんにまず敬意を表したいと思います。

歌舞伎町玉城ビル
Chim↑Pom「ナラッキー」は10月1日まで開催中です
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