現在、横浜高島屋ギャラリーで開催中の『パリを愛した孤独な画家の物語 生誕140年 モーリス・ユトリロ展』を観てきました。本展は1883年に生まれたユトリロの生誕140年を記念して、約70点の作品を紹介するものです。

 ユトリロと言えばパリ、パリと言えばユトリロということで、本展で紹介される作品も殆どがパリ市内や近郊を描いた景色です。それも決まって手前に地面が広がり、そこから奥に向かって道が地平線まで伸び、その両側を建物が彼方まで連なり、空は一様に薄青い色、と言う作品ばかりです。ユトリロはこうした景色の絵を生涯に渡って描き続けたのです。

 特に1908年頃から描き始めた「白の時代」では、一様に白い壁の建物を描いています。元々白い建物を選んだのか、それともユトリロの脚色が入っているのかはわかりません。そしてその白も真っ白ではなく、複雑な色が混じっています。様々な色を白で塗り込めたようです。ユトリロは漆喰が好きだったそうです。パリを去るなら漆喰だけは持って行きたいと言ったとか。キャンバスに白い絵の具で絵を描いているというより、白壁を漆喰で塗り込めている感覚なのでしょう。

 この頃の絵には影がありません。青い色に白い家を描いているのに光と影を感じません。このため建物は立体感を欠き、ノッペリとして見えます。また殆ど人の姿はありません。彼方に人影がチラホラするだけです。このためどこか現実感のない静謐な感じがあります。

 また作品の殆どは小品です。私の家にも飾れそうな手頃なサイズです。ユトリロの絵は生前から売れたそうです。そのお金で郊外に家が買えるほどだったのですから、人気だったのでしょう。なるほどパリっ子にとって、場所が特定できるほど丁寧に描かれたパリの情景で手頃なサイズなら1枚飾りたいな、そう思える作品です。

 面白いことに絵がカラフルになる後年の「色彩の時代」は人気が今ひとつだったそうです。この頃の絵は青と白以外に多彩な色が加わります。そして建物や人物に影が描かれます。建物もより実在感が高まります。しかし皮肉なことに、その分あの独特の味わいは消え、「普通」になってしまうのです。

 ユトリロは生涯アルコール依存症に苦しんだそうです。後半は幽閉状態で絵葉書を見ながら絵を描いたとか。ユトリロの描くパリは自由にならない自分の身から生まれたパリの幻想なのかもしれません。

横浜高島屋ギャラリー
「ユトリロ展」は10月2日まで開催中です。
230920