現在、渋谷のディーゼル・アート・ギャラリーで開催中の岸 裕真さんの個展『The Frankenstein Papers』を観てきました。

 これは一風変わった展覧会です。ひょっとしたら世界初かもしれません。なにしろキュレーションをしているのはAIなのです。AIがキュレーションってどういうこと?誰もがそう思いますよね。

 実際には、AIにあの「フランケンシュタイン」の作者、メアリー・シェリーの文章を読み込ませてチューニングしたMaryGPTに、「どんな展覧会なのか?」という問いを投げかけ、その答えどおりにキュレーションした、という筋書きです。なぜメアリー・シェリーかというと、人間が作り出したフランケンシュタインの怪物にAIをなぞらえているのでしょう。



 その筋書きによると、展覧会の冒頭にはメアリー・シェリーの肖像画があり、中央には、フランケンシュタインの怪物を拘束した手術台とギリシア神殿の柱が置かれているというもの。その指示に従い、さらに展示作品自体もAIによって生成された図に岸さんが手を加えたものが展示されているといった具合です。




 その結果できあがったものは、もはやどこまでがAIの作業でどこまでが人間の作業か見分けがつきません。

 さらにいうと、展覧会のコンセプト文や作品解説もMaryGPTによるものです。私は最初読んでいて変な文章だなあと思ったものの全く気付かず、スタッフの方にお聞きして初めて知った次第です。

 今年に入ってAIの、特にChatGPTに代表される言語系や、Stable Diffusionの画像系は目覚ましい進歩を遂げています。そこで生成される文や画像は人間がつくったものと見分けがつきません。最近世界の知識人がAIの開発一旦ストップしようという声明を出しましたが、それもよくわかります。このままいけば、人間が作ったものもAIが作ったものが同列になるどころか主従が逆転する恐れさえ十分にあるからです。

 私個人としては、いずれAIが作るものと人間が作るものを区別する必要はなくなるのではないかと思っています。差異のない差異は相違ではないからです。それを区別や差別しようとするのは無意味だと思います。

 では人間に残されたものは何か、というと、それは鑑賞であり、楽しむことだと思うのです。このことについては、どこかでまとめてきちんと書きたいと思っています。

ディーゼル・アート・ギャラリー
岸 裕真
『The Frankenstein Papers』
は6月1日まで。ただし前期後期があり後期は4月29日(土) 〜 6月1日(木)です。後期はどのように変化するのか今から楽しみです。
230419