現在公開中の映画『サイド バイ サイド 隣にいる人』を観てきました。

 人の“想い”が見える青年、未山は、母子家庭の詩織、美々と静かに暮らしていた。そんな未山にある青年の“想い”が隣にいるようになる。その想いとは・・・。

 この映画の監督・原案・脚本は伊藤ちひろさんという方です。「世界の中心で、愛をさけぶ」でも脚本を共同執筆された方で本作が監督第二作です。

 これまで数多くの脚本を執筆されている伊藤監督ですが、本作では脚本の行間に隠されたものを映像で表現したかったのだと思われます。脚本の行間ですから、台詞のない部分です。このためこの映画では沈黙しているシーンが異常に多いのです。130分の上映時間のうち恐らく100分ぐらいは沈黙していると思います。それはもうテレビなら放送事故レベルです。この沈黙に耐え切れない方は、この映画には不向きでしょう。

 台詞で説明するのは映画としては下手だとはよく言われることです。そういう意味では、この映画は実に映画的な映画だといえます。なにしろ何もかも映像だけで説明しようとしているのですから。

  問題なのは、伊藤監督が見せたい映像イメージが、必ずしも観客が見たい映像イメージと一致しないということです。また監督が意図をもって挟み込んだ映像イメージも、その意図が正しく観客に伝わるとは限りません。観客は見たままそのままを理解するわけではなく、自分が見たい映像を理解するからです。多くの監督は、ここにギャップがあることを前提に、自分の映像イメージと観客の理解の間を埋めようとするのです。

 この映画はその工夫をすっ飛ばして作られています。監督の映像イメージが生の状態で並べられているのです。それは生の新鮮感はありますが、誰にでも食べやすいものではありません。合わない人には苦痛や眠気を誘うものでしょう。正直なところ、劇場公開ではなく、美術館で上演したほうが評価は高いのではないかと思われます。これからご覧になる方は、以上のような心構えで見られたほうがよいでしょう。

 毎度女優目当てで映画を選ぶ私にとって、今回のお目当てはもちろん齋藤飛鳥さんです。本作の彼女はいうほど出番は少ないのですが、独特な雰囲気は斎藤飛鳥さんならではだったと思います。あ、あと市川実和子さんはもうさすがの存在感でした。
230417