現在、上野の森美術館で開催中の長坂真護さんの個展「Still A BLACK STAR」を観てきました。

 長坂さんは元々は歌舞伎町でホストをやっていて3000万稼ぎ、そのお金を元手にアパレル会社を設立・経営したものの1年であえなく倒産。全財産を失った長坂さんは路上アーティストとして生計を立てていたとか。


展示風景


 そして行き着いた先が「世界の電気機器の墓場」と言われていたガーナの首都アクラにあるアグボグブロシーなるエリア。そこでは世界中から集まった電子機器の廃棄物が燃やされ、そこから取り出した金属でわずかばかりの生計を立てている人たちがいました。


展示風景

 見渡す限りの廃棄物と廃棄物を燃やす黒煙の光景に衝撃を受けた長坂さんは廃棄物からアートを作り、そこから得た利益でこのスラム街を改善しようと決意します。本展の展示作品は、この廃棄物アートが主役です。



《Plastic Boy》
 ガスマスクをつけた少年。額縁には黒焦げのキーボードやマウス、VHSテープ、リモコン、メーター、コントローラーなどが貼り付けられています。荒廃した土地を背景に少年の目だけが光輝いています。



 長坂さんの作品にはソニーやパナソニック、ニンテンドーなど日本の著名企業の電子部品も貼られています。ガーナで起きていることは決して他人事ではないのです。また日本の小豆島でも浜辺にはガラスやプラスチックが漂着します。アボグロブロシーで起きていること、起きたことは現在進行形で全世界でも起こっているのです。

 2021年7月には現地の浄化作戦によりアボグロブロシーは消失します。しかし現地の貧困層がなくなったわけではありません。現在長坂さんはガーナの地にプラスティック処理工場を建設しようとしています。廃棄物のプラスティックを処理しつつ雇用を創出しさらに得た利益でスラム街を撲滅しようとしているのです。また「スーパースター」プロジェクトとして、現地の子供達に絵を教え、彼ら彼女らの中からアーティストを育てようともしています。


《Ghana's flag》

 本展のタイトルのBLACKSTARとはガーナの国旗にあしらわれている黒い星のことです。「世界の中でガーナはまだ光輝いていない」ことを意味しているそうです。いつかこの黒い星が金色に輝く日が早くきますように。

 初期の絵画作品を観ても確かな技術と構想力があることがわかります。廃棄物で作られたアート作品は綺麗なわけではありませんが、その生感を出すためにあえて綺麗に作っていないのでしょう。その証拠に「満月」と題されたシリーズは詩的な美しさをまとっています。

  長坂さんは「サスティナブル・キャピリズム」として環境・文化・経済がバランスよく循環する資本主義を提唱しています。ぜひ多くの方に足を運んでほしい展覧会です。

上野の森美術館
「長坂真護個展Stil A  BLACKSTAR」
は11月6日まで開催中です。
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