現在、東京文京区の弥生美術館で開催中の「田渕由美子展」を観てきました。


 田渕由美子さんと聞いて、今の若い方はどれだけご存知でしょうか。

 1970年代後半、少女漫画誌「りぼん」で描かれる漫画が大人気となりました。

 この人気の立役者が、田渕由美子さん、陸奥A子さん、太刀掛秀子さんといった漫画家の方たち(あと、小椋冬美さんも忘れてはいけませんね)。

 彼女たちの描く漫画は、ごく普通の少女たちの、ごく普通の日常生活から生まれる、ごくごく淡い恋愛ストーリーでした。

 それらの作品は「おとめちっく」と呼ばれ、大ブームとなります。

 なにしろ「りぼん」は発行部数100万部までいったそうです。


 本展はその田渕由美子さんのデビュー50周年を記念して、デビュー作から最新作までを振り返る展覧会となっています。

 私は妹がいたので、当時リアルタイムで読んでいました。

 「クロッカス咲いたら」や「雪やこんこん」といったタイトルは今でも実家に帰れば、書棚の奥にありそうです。

 田渕由美子さんらが描く「おとめちっく」な漫画の魅力を説明するのは中々に難しいことです。

 ドラマチックなことは何一つ起こりません。主人公もなんの変哲もないごく普通の少女だからです。

 今、あらためて作品群を観てみると、田淵さんの作品はほとんどが読み切りです。連載で描かれたものもオムニバス形式で、実質的には一話完結です。

 その一話の中で、ふとしたことからほのかな恋心がうまれ相手とうまくいく、そんなお話ばかりです。

 つまり恋の本当に始まりの始まりだけを、ずっと追いかけているのです。

 デビュー当時、田渕さんは高校1年生だったそうです。それだけでも驚きですが、作品をずっと出していたのも大学生時代とのことです。

 同時代同世代だからこそ、当時のあの女の子だけが持つ恋へのあこがれを形にできたのでしょう。

 田渕さん自身は、そのことを「少女らしさ」「少女のまとうやわらかな空気感」と表現しています。

 田渕さんはその後ご結婚されいったん筆を置き、子育てのあと、また漫画を書き始めています。

 私にとって、そして同時代に「りぼん」を買った方にとって懐かしいのは、「ふろくコーナー」でしょう。

 当時の「りぼん」には「おとめちっく」満載の付録がこれまた大人気だったのです。

 ということで、70年代「りぼん」を愛読された方にはぜひおすすめの展覧会です。

実家を探したら、やっぱりありました。

弥生美術館
田渕由美子展は
6月6日まで。なお会期中で一部展示変えがあります。

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