役所広司さん主演、西川美和監督の映画「すばらしき世界」を観てきました。
なお本稿は後半でエンディングに関するネタバレがあります。映画未見の方はご注意ください。
原作は佐木隆三さんが実在の人物をモデルに描いた小説「身分帳」。例によって私は未読です。
西川監督の映画を観るのは「ゆれる」以来です。今作は、オリジナル脚本を撮り続けてきた西川監督が始めて取り組む原作ものということになります。
大雪の日、旭川刑務所を一人の男が出社します。男の名は三上。三上は殺人の刑で13年間服役していたのでした。人生の大半を刑務所で過ごしてきた三上は、今度こそ堅気になろうと心に誓うのですが・・・。
映画はこのあと、三上の行く末を十分な時間をかけて追いかけます。恐らく西川監督は、こうすることで三上の人生が観客と同化することをねらっているのでしょう。観客自身が三上になるために。
この映画を観た方は「すばらしき世界」という作品タイトルに違和感をいだくでしょう。この世界は残酷です。生きづらい世の中だと思うでしょう。
確かにこの作品には三上を支える人がたくさん出てきます。そこには一縷の救いがあります。しかし、この映画のどこに「すばらしさ」があるといえるのでしょうか。
その答えはエンディングにあるように思います。
(以下、ネタバレしてます。重ねてご注意ください)
最後、アパートの前で三上に縁のある人々が呆然と立ちすくみます。カメラはその人達を上空から捉えます。
このカメラの視線は、魂となって天国(空)へ向かう三上の視線ではないでしょうか。
やがてその視線は上空に移り、堅気には見えるという広い青空になります。
その青空をバックに作品タイトルの「すばらしき世界」が映ります。
つまり、三上のような人間でも、広い空を見ることができる堅気になれるのだ、この世界はそういう「すばらしい世界」なのだ、と言ってるように思います。
あるいは、これは三上自身の思いなのかもしれません。
「自分は広い空が見れる堅気になれたのだ。この世界はなんてすばらしいのだろう」
私は、そういうエンディングなのだと思います。
というより監督の意図がどうであれ、このように思いたいです。
主演の役所広司さんですが、日本最高峰の役者が全身全霊をかけてとりくむ役に、何もいうことはありません。今年の映画賞の最優秀主演男優賞は役所広司さんで決定でいいと思います。
210223