この本はタイトル通り美術展および美術館の「不都合な真実」=内幕をありのままに書いた本です。
博物館法の第23条には以下のように定められています。
「公立博物館は、入館料その他博物館資料の利用に対する対価を徴収してはならない。但し、博物館の維持運営のためにやむを得ない事情のある場合は、必要な対価を徴収することができる」
美術館も公立の美術館であるのならば、本来は無料のはずです。しかし日本のほとんどの公立美術館は何らかの形で料金を徴収しています。企画展はともかく常設展も料金を取られます。
私自身は美術館がお金を取ることは肯定的です。何であれ、それが美術館と周囲の発展につながるのであれば、公立美術館であっても、むしろ料金=対価を取っても良いと思ってます。
しかし、この本で書かれている現実は、美術展がもはや「興行」と化し、単なるビジネスとなっている姿です。それによってアートシーンが発展するというよりも、むしろ歪めている姿です。
この問題は根が広く深く、美術展を企画運営する側だけの問題ではありません。
著者は実際に美術展を運営する側として20年以上、実務を行なってきた方です。裏の裏まで知り尽くしているからこそできるその指摘は、本質をついてます。何らかの形でアートに携わる方、アートに触れる方には、ぜひ読んでいただきたい一冊です。
また、コロナ禍が続く今、現状のような形の美術展は早晩行き詰まる可能性が高いです。高額な入場料を徴収し、長い行列が続くことで大量動員を計ってきたこれまでの美術展は、少なくともここ当分は無理でしょう。三密を避け、日時指定で定員制の「新しい日常」の中の美術展にならざるを得ません。
しかしこれでは「興行」としてはもはや成立しません。
コロナ禍が終わらない限り、これから日本では、海外の有名作品を持って来ての大型美術展は難しくなるでしょう。そして、それは私たちの美術鑑賞の習慣や考え方も変えざるを得なくなるように思います。
著者が巻末で述べているように、美術館と美術展全体の枠組み、グランドデザインを考え直す時期に来ているように私は思います。
200801