「お客さんと一緒にひとつのモノを作り上げたいですね。」

東京から滋賀へ、昨年の夏、新たな創作活動の理想を求めて故郷に帰ってきたアーティストがいる。
飯田武彦さん35歳。滋賀県の安土で生まれ育った飯田さんは中学、高校とサッカーで活躍し、大学では体育関係を学んだ根っからのスポーツマン。
大学卒業後は兵庫県の明石にある大手スポーツクラブにインストラクターとして就職し、まさにスポーツ主体の毎日を過ごしていたとか。そんな折、今から約10年前、大阪に立ち上がった、関西の芸術家や作家たちによる街づくりプロジェクト「阿倍野SOHOアートプロジェクト」に参加することに。それまで勤めていたスポーツクラブを退職し、モノづくりをやりたい気持ちでプロジェクトに参加。
このプロジェクトを通じて木工の魅力を知った飯田さんは、木工を学ぶために神奈川県平塚の職業訓練学校に入学。そこで一年間学んだ後、相模原の知人の工房を間借りしながら創作活動をスタート。活動の基盤を神奈川、そして東京に築いた。
「関東での創作活動も色んな出会いがあったり、色んな人に助けられたりしながら充実してました。でも向こう(東京)の商業ベースというか、ビジネス主導の創作活動にちょっと疑問が出てきて…。木工としていつしか“自分の作りたいものはこうです”というカタチをつくりたくなって、故郷に帰ることを決めました」。
なぜ故郷に帰ったのかと訊ねると「やはり父親のもとで修行したかった」という意外な答えが。聞けば飯田さんのお父さん飯田雅彦さんは、仏像の制作・修復を手掛ける仏師として著名な職人さん。「自分の10年後、20年後のことを考えると、父のもとで一から彫刻のノウハウを学んでみたかった」と。
飯田さんの創作は店舗の内装、テーブルや椅子、ショーケースや什器をはじめ個人宅のインテリア、照明やテーブルセットなど多彩に展開。「僕の場合は、一方通行のモノづくりではなくて、お互いのコミュニケーションの中から得られるエピソードなどを共有しながら一つのモノづくりをしたいですね。出来上がったモノを見てお客さんの驚く顔を見る瞬間は喜びです(笑)」。
また、「自分が作ったモノは一生大事に使って欲しい。店作りで言えば、滋賀県ではサイクルの早い都会と違って長いスパンのお店作りをしたいですね」と語る飯田さん。
東京で知り合った奥様を心強いパートナーに、故郷での挑戦が始まっている。
PROFILE
1970年 滋賀県生まれ
1993年 大学卒業後、大阪のスポーツクラブにインストラクターとして就職。時を同じく、「あべのソーホープロジェクト」に参加。木工に出会う。
1995年 木工を学ぶため神奈川県平塚の職業訓練校に入学
1996年 神奈川県相模原の工房で創作活動開始
2004年 滋賀県日野町にスタジオ ファブ開設
スタジオ ファブ
滋賀郡蒲生郡日野町鳥居平220
tel.0748ー52ー4341



