全てが変わっていく

全てが終わっていく


パパは一年半前から目に見えて痩せ始めた

一年前に検査でMCIと言われた

症状は軽く会話も普通に交わせたし

第二就職の会社にも行っていた


でもあんまり痩せるから

ママが沢山の病院に検査に連れて行っていた


どこも悪いところはないと言われた

東海中央病院に行った時も

脱水症状がありますが入院されますか?

そんな感じだった


痰が絡み息苦しそうだったし

食欲も無くどんどん痩せていくので

その日病院に付き添っていたママと弟が

入院させることを決めた


入院後のこと

医者から聞く話は

以前はMCIだった症状がどんどん悪くなっているのではと感じるものだった

入院すると悪くなるというのはよくあることのようだった

だけど、家族がいる時はちゃんと会話もできる

普通のパパだった


入院から10日くらい経ったある日

誤嚥で死にそうになっていたところを回診で発見された

病院からの呼び出しで

私がママを連れて駆けつけた


一般病棟はいつでも医者の目が届くわけじゃない

看護師さんも少ない

なんとか一命を取り留めた後

病院の提案で集中治療室に移動になった


COPD

医者からはっきり言われたわけではない

会話の中でちらっと出た話をママがメモしていた


喫煙者特有の症状


そして誤嚥からの肺炎

肺の二酸化炭素を出すのが難しい

呼吸器で無理に出すことになった


痩せ痩せだけど、他の集中治療室の患者さんと違い呼吸器を取れば話もできるしベットから降りる力もある


どこが悪いと聞かれたら

COPDによる肺機能低下

それもはっきり告げられたわけじゃない


そのうち肺機能も安定し

肺の酸素量も通常まで戻った

そのため集中治療室をでて一般病棟へ移ることになった


呼吸のリハビリや歩行のリハビリなんかも少しずつしていた


もう少し回復したら家に帰って、柔らかいご飯を食べながら体力を付けて、また元の生活に戻って行く

医者の話もそんな雰囲気だったし

家族もみんなそんな未来をイメージしていた




だけど、何かがおかしい


退院の日のパパは、入院時よりも明らかに痩せて目の周りも落ち窪んでいた

お昼の病院食だって殆ど手をつけない


今まで病院でちゃんと食べていたんだろうか

本当に退院していい状態だったんだろうか


もしかして医者は

死期が近いから病院で死ぬより家で亡くなる方がいいと思って

急いで退院させたんだろうか


今になって思えば

そうとしか考えられない状態だった


COPD以外どこも悪く無かった

それだってはっきり告げられた病名じゃない


そして

その病気にしても肺の状態は通常に戻っていた




それなのに、退院2日で亡くなった


警察に、病院を訴えるかどうか聞かれた





亡くなった日

泣きじゃくるママを抱きしめながら


パパは家に帰れたし、ママのそばで亡くなったのだから幸せだった

パパは家に帰りたい帰りたいと言っていたし

医者が死期を悟って家に帰してくれたのかもしれない

死ぬとわかっていても医者の立場上そんなこと患者の家族に言えないんだと思う


そんなようなことを言って慰めた


私自身も、そう思うより他になかった



私たちは訴えないことを選んだ





退院の日

全く良くなっている人の顔じゃなかった


寿命だと思いたい

医者の判断は正しかったと思いたい


だけど

他に何か選択肢はなかったんだろうかと

つい考えてしまう

他に方法は無かったのか?


退院の日、電気シェーバーが紛失していた

見つかったと連絡があり弟が取りに行くと

ビニール袋に入ったシェーバーを渡され

その袋の底には水が100200cc程溜まっていた


亡くなった日だったのでそれ以上追求しなかった


電気シェーバーはどこで見つかったんだろう

何で水が溜まっていたんだろう



COPDかもしれないと思ったのなら

はっきりと家族に告知して

ちゃんとCOPDのための治療をして欲しかった


もし治る見込みが無い状態だったのなら

それをちゃんと教えて欲しかった




家族みんな

パパが家に帰って来てからのこと

未来の準備をしていた


部屋を片付け家具を買い

ママは嚥下食の作り方を学んで



ママは

看護師さんたちにはとても親切にしてもらった

先生も丁寧だったと言う


私も

ママを慰めたくてあんな風に言った




だけど

毎日泣いているママには言えないけど


病院の対応は間違っていたのではないかと思う


もし死因がCOPDによるものなら

あの悪いサイクルを改善するための

長期的な栄養治療とリハビリが必要だったのではないのか




だけど

今更何を言ったって

もうパパには会えない