約5年ぶりに、下山芸術の森発電所美術館に行ってきました。
こちらは、大正時代の水力発電所をリノベした、
日本唯一、世界的に見ても大変珍しい美術館です。
1995年に開館して以来、一貫して、
立体造形の現代作家の展覧会を中心に開催しています。
そんな発電所美術館では、2020年度より、
地元ゆかりの作家を紹介する展覧会“アート・クリップ”を毎年開催しているそう。
今年2024年に開催されているのは、“川越ゆりえ YURIE PARK”。
富山県射水市在住の造形作家、川越ゆりえさんがフィーチャーされています。
展覧会の会場に入ろうとしたその前に!
美術館ではなかなかお目にかかれない口調の注意文が用意されていました。
・・・・・テーマパーク的な(笑)?
何はともあれ、この時点で、
本展がただの展覧会ではなさそうなことがわかりました。
面白そうな予感がプンプンしています。
では、こちらの門をくぐって、いざ会場へ。
どこかサーカスを彷彿とさせる空間には、
昆虫標本のようなものが多数展示されていました。
しかし、よくよく観てみると、
それらの標本の中にいたのは、
見たことがない不思議な虫ばかりです。
川越ゆかりさんは、架空の虫を制作するアーティスト。
人間の心に潜むさまざまな感情や弱さを、
擬人化ならぬ擬虫化させるアーティストです。
例えば、こちらのMerry-Puffenは、八方美人の虫とのこと。
メリーゴーランドの屋根のような触角に、
8つの仮面のようなものが付いています。
この触角の方に栄養が行きすぎるため、
肝心の本体は小さく干からびたような形で下にぶら下がっているのだとか。
また例えば、こちらのJealousyは嫉妬の虫。
川越さんが生み出したオリジナル虫の第一号なのだそう。
嫉妬にはいろんなタイプのものがあるように、
Jealousyにもいろんな形態のものが存在しているそうです。
中でも印象深かったのが、Neonと名付けられた虫。
川越さん曰く、逃避と享楽の虫とのこと。
あらゆる責任から逃れ遊び回りたい気持ちを虫化させたものです。
蛾のような見た目ですが、蛾ではないそう。
そもそも翅もなく、浮かんで空を飛んでいるそうです。
他にも、Neonにはこんな特徴があるのだとか。
・「蛾」として属するのが億劫で、どこにも分類されそうでされないように曖昧な体をしている。
・それゆえに模様も適当で、眼状紋に似せる事すらやめ、
好きな模様を好きなように体に配置して生きている。
・逃げ回って夜空に紛れられるように暗い色の体をしている。
他にも、頭がどちら側にあるのか誰にも分からない“どっちつかずの虫”や、
成虫になれる歳なのに幼虫の姿のままでいたがる“大人になりたくない虫”など、
川越さんのオリジナリティあふれる虫が、会場に大量発生していました。
正直なところ、個人的には虫は苦手なのですが。
一つ一つの虫の設定のディテールの細かさに加えて、
造形としての面白さもあって、食い入るように見入ってしまいました。
しかし、まぁ、川越さんのこの発想力はどこから生まれるのでしょうか。
もしかしたら、何らかの特殊な虫が脳に棲み付いているのかもしれません。