10年ぶりくらいに、宇都宮美術館に行ってきました。
現在、こちらで開催されているのは、
“イヴ・ネッツハマー ささめく葉は空気の言問い”という展覧会。
スイスを代表する現代アーティスト、
イヴ・ネッツハマー(1970~)の日本初となる大規模個展です。
展覧会は、展示室に入る前、
ガラス張りの廊下からすでに始まっていました。
ガラスに貼られているのは、コンピューターによる線描画。
動物だったり、顔にも見える何かだったり。
どの線描画も、奇妙でどこかユーモラスな風合いがあります。
なお、美術館の中庭には、
クレス・オルデンバーグの立体作品が常設されており、
ネッツハマーの線描画との取り合わせも楽しめました。
続いて、2つの企画展示室と常設展示室1室を繋ぐ、
吹き抜けのある「中央ホール」にもネッツハマーの新作が設置されていました。
天井から吊り下げられたLEDホログラムファンと、
床面で回転を続ける薄型モニターからなる作品で、
そのタイトルは、《奇妙な空間混合》とのこと。
まさしくタイトル通り、奇妙な空間が混合していました。
さてさて、ピピロッティ・リストの次世代を担う映像インスタレーション作家として、
2007年のヴェネツィア・ビエンナーレではスイス館代表も務めているネッツハマー。
本展では、その際に発表された映像作品が展開されています。
彼の映像作品によく登場するのが、
3DCGでモデリングされた人物たちです。
無機質なその姿は、どことなく、
ニュースで見かける事件の再現CGを彷彿とさせます。
もしくは、風邪薬のCMに出てくるCGとか。
あるいは、デ・キリコの形而上絵画に登場するマネキンにも通ずるところもありました。
どこか不穏さも漂わせながら、妙な可笑しみもある。
ジワジワと中毒性のある映像作品です。
と、一方の展示室では、彼の映像作品が展開されていますが。
もう一方の展示室では、空間全体をまるまる使って、
本展のための新作インスタレーションが展開されています。
タイトルは、《筏》。
本展のために来日したネッツハマーは、
宇都宮市内の大谷採石場や近隣の足尾銅山跡を巡り、
そこで「闇の地下空洞」にとても魅了されたのだそうで。
この《筏》には、その要素も取り入れられているようです。
確かに、そう言われてみれば、
美術館の展示室であるにもかかわらず、
地下の空間にいるような雰囲気を感じました。
実は、いくつかの竹のパーツが、機械仕掛けで動くようになっており、
竹のパーツ同士がぶつかって音を出したり、ドラム缶に当たって音を出したり。
展示室内で時々響き渡るそれらの音と反響音が、
地下空間をどことなく想起させていたような気がします。
何より印象的だったのは、
竹に施されたポップなカラーリングです。
この色のセンス自体は、ネッツハマーによるものですが、
油分が多いために着色が難しいとされる竹への着色技術は、
栃木県の大田原市にある竹芸工房「無心庵」によるものなのだとか。
ネッツハマーと栃木県のコラボが生んだ作品です。
なお、このインスタレーション作品は、
展示室奥にある開放的な空間にも続いています。
こちらもお見逃し無きように。
ちなみに。
展示ケースに入れられていたのは、ネッツハマーによる屏風絵、
《世界は美しく、こんなにも多様だ。本当なら皆、愛し合ってもおかしくないはずなのに。》。
タイトルのニュアンスといい、描かれているイメージといい、
色彩こそ全然違うものの、ピカソの《ゲルニカ》を想起させます。
アニメーションではないですが、
画面全体がウニョウニョと動いて感じられる、不思議な味わいの作品でした。
宇都宮駅からバスで30分ほど。
アクセスには難のある宇都宮美術館ではありますが、
美術館の空間や環境と、ネッツハマーの作品がバチっとハマっており、
個人的には、足を運んだ甲斐があったと思えた展覧会でした。