「あ、共感とかじゃなくて。」 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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この夏、東京都現代美術館では、

夏休み期間らしく、子ども向けの・・・と言っても、

ちょっと大人の10代向けの展覧会が開催されています。

その名も、“「あ、共感とかじゃなくて。」”です。

 

 

 

タイトルがキャッチーなこの展覧会のキーワードは、『共感』。

SNSの「いいね!」や、「わかりみ」など、

日常のコミュニケーションには「共感」があふれています。

一般的には、良いものと捉えられている「共感」ですが、

人によっては、安易に共感されることでイラっとしてしまったり、

あるいは、共感を無理強いされることで嫌な気持ちになってしまったり、

共感に不快感やプレッシャーを感じることも無くはありません。

そんな時は、「あ、共感とかじゃなくて。」と、

あえて共感しないことがあってもいいのではないか?

そんなことを展覧会を通じて問いかけるものです。

 

参加作家は、全部で5名。

共感できる作品もあれば、共感できない作品もあるでしょう。

でも、この展覧会は特にそれで良いのです!

そう言う意味では、10代の人だけでなく、

現代アートに苦手を意識を持ってる大人たちにもピッタリといえましょう。

星

 

 

さて、まず紹介されていたのは、

新進気鋭の映像作家・有川滋男さんの作品です。

 

 

 

企業説明会を想起させるブースのようなものが、

展示室に4つほど設置されており、それぞれで映像が流れています。

 

 

 

会社名も架空なら、映像で紹介されている仕事も架空。

ただ、世の中に存在していない仕事ながら、

しばらく観ていると、“もしかしたらこんな仕事があるのかも?”と思えてきます。

そして、さらにしばらく観ていると、“やっぱりこんな仕事ないか”とも思えてきます(笑)。

リアリティがありすぎず。かつ、ウソっぽすぎず。

どの映像も、その絶妙のラインをついていました。

 

なお、こちらは今展のために制作された有川さんの新作、《ディープリバー》

 

 

 

こちらでも架空の仕事の映像が流されています。

また、電光掲示板に映し出された数字も、その架空の仕事に大きな関係があり。

一体どんな仕事なのか、気になる方は是非ご自身の眼でお確かめくださいませ。

 

続いて紹介されていたのは、山本麻紀子さん。

こちらの空間は、山本さんご自身のアトリエを再現したものなのだそうです。

 

 

 

そんな空間の真ん中に置かれていたのは、巨大な歯でした。

 

 

 

なんでも、山本さんは巨人が好きとのこと。

巨人と言っても、野球チームのではなく、

その言葉通りの、巨大な人が好きなのだとか。

それが高じて、この巨大な歯を作ったのだそうです。

・・・・・・・え~っと、あのー、うん。

共感は出来ませんでした(笑)

 

 

3人目に紹介されていたのは、渡辺篤さん。

渡辺さんは、かつて引きこもりの経験があり、

現在はその当事者をケアする活動をしているアーティストです。

この作品に映し出されているのが、その渡辺さん。

 

 

 

こちらは、渡辺さんが引きこもりをやめる、

その決意をした瞬間を自身で撮影したものなのだそう。

それをコンクリートに転写し、その上で、

あえて割り、金継ぎを施したものなのだそうです。

心の傷は本当の意味では完全に治癒していない。

それを可視化した作品とのことです。

 

また、渡辺さんが代表を務める「アイムヒア プロジェクト」の活動も紹介されていました。

 

 

 

これらの作品に使用されている月の写真は、

2020に発令された緊急事態宣言、いわゆるステイホームの際に、

「孤立感を感じていること」という条件で集まった匿名の人々によって撮影されたもの。

渡辺さんはスマホ用の小型望遠鏡を送り、

それを受け取った匿名の人々が、月を撮影したのだそうです。

改めて考えると、たった3年前なのですが、

ステイホームをしていたのが、遠い記憶のかなたのような。

あの時の月と思って観てみると、不思議と感慨深い気持ちになりました。

 

 

巨大な吹き抜け空間で展開されていたのは、

演出家として活動する武田力さんによる《教科書カフェ》

 

 

 

軽トラを改造した車の中にズラっと並んでいるのは、

戦後から平成31年までのさまざまな科目の教科書です。

 

 

 

これらはすべて閲覧可能。

“あー、こんなこと学んだ!”と共感するもよし、

“え?こんなこと学校で教えてたの??”とジェネレーションギャップを楽しむもよし。

最近テレビ界の一つのトレンドである「昭和vs Z世代」を楽しめるような作品でした。

 

 

最後に紹介されていたのは、中島伽耶子さん。

物事を隔てる壁や境界線をモチーフに制作を続けるアーティストです。

今回、中島さんは、黄色い巨大な壁の新作、

《we are talking through the yellow wall》を制作。

吹き抜け空間の壁をまるで突き破っているように設置されていました。

 

 

 

しかも、この黄色い壁には何やら仕掛けもあります。

 

 

 

ただ、どうやらこのボタンを押したとき、

実際に何かが起きているのは、壁の反対側のようで・・・。

つまり、2人以上で訪れないと、その仕掛けがわからないのです。

(運とタイミングよく、誰かが押してくれればいいのですが)

 

 

ちなみに。

仕掛けと言えば、展覧会の冒頭にあった7つの照明も・・・・・

 

 

 

実は、アイムヒア プロジェクトの作品であったことが、

展覧会の最後に明らかになる仕掛けになっていました。

どういう作品なのかは、是非会場でお確かめくださいませ。

 

 

 

 

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