冨安 由真 影にのぞむ | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

副都心線の終点としてよく目にする森林公園駅。

そこからさらに1駅北上したつきのわ駅から、

スマホの地図アプリを頼りに歩き続けること約30分。

 

 

 

“本当にこんなところに美術館があるのだろうか・・・”

 

と、いよいよ不安が頭をよぎった頃、

ようやくお目当ての美術館に辿り着きました。

 

 

 

その名は、原爆の図丸木美術館。

 

 

 

画家の丸木位里・丸木俊夫妻が共同制作した連作《原爆の図》を、

誰でもいつでもここにさえ来れば見ることができるようにと1967年に創設した美術館です。

 

ちなみに。

字面だけ見ると、丸木位里が女性で、

丸木俊が男性のような印象を受けますが、実際はその逆で、

水墨画家の丸木位里が夫で、洋画家の丸木俊が妻です。

ごっちゃになってしまいませんように。

 

 

さて、受付を済まして、まずは美術館の2階へ。

こちらにメインとなる《原爆の図》が展示されています。

 

 

 

広島出身だった位里は、原爆投下の報せを受けた数日後に、

妻の俊とともに広島に入り、惨状のような光景の中、救援活動に奔走したそうです。

この悲劇を二度と繰り返さないために、絵にして世に伝えるべきと考えた2人は、

報道規制が敷かれていたにもかかわらず、1950年に《原爆の図〈第1部 幽霊〉》を発表しました。

以来、この連作に取り組み続け、

30年以上の歳月をかけて、全15部に及ぶ《原爆の図》が完成しました。

原爆の図丸木美術館では、そのうちの14部を見ることができます。

(〈第15部 長崎〉は長崎原爆資料館が所蔵)

 

 

 

戦争を題材にした作品は、美術作品に限らず、

映画やドラマなども含めて、これまでに幾度となく目にしてきましたが、

この《原爆の図》シリーズが一番胸を抉ってきた気がします。

正直なところ、何度も目を逸らしたくなりました。

直視していられないと言いましょうか。

しかし、そこをグッと堪えて、

「逃げちゃダメだ逃げちゃダメだ…」と自分に言い聞かせて、

《原爆の図》と向き合ったところ、悲しみと怒りと喪失感とで感情がグチャグチャになりました。

 

美術館には、俊の勧めで70歳を超えてから、

絵を描くようになった位里の母、丸木スマの絵画も常設されているのですが。

 

 

 

このほのぼのした絵があったおかげで、

グチャグチャになった感情が、いい感じで緩和されました。

丸木スマの絵画さまさまです。

 

 

さて、原爆の図丸木美術館では現在、

“冨安 由真 影にのぞむ”という企画展も開催されています。

 

 

 

こちらは、過去に『そろそろ美術の話を…』にも出演頂いた・・・

 

 

 

現代美術作家・冨安由真さんの最新個展です。

冨安さんといえば、誰もいないにも関わらず、

何かがいるような気配を感じさせる体験型作品でお馴染みのアーティスト。

展示室の周囲には、これまでの作品でも使われていたような、

アンティークの家具がインスタレーション的な感じ(?)で置かれていました。

 

 

 

なので、きっと今回の新作展も、これまでの作品と、

テイストは同じなのだろうと思って、展示室に入ったのですが・・・・・・・

 

全っ然違いました!!

 

 

広い空間に無数の浮かんでいたのは、

天井から吊り下げられた無数の白い手のオブジェ。

 

 

 

これらは、広島の被爆者の手を型取りしたものなのだそう。

今作のために冨安さんは、被爆経験のある男女15人に、

その経験談の聞き取りをし、そして、その手を型取りしたそうです。

実は、冨安さんの母方の祖父母も、

広島原爆の爆心地から1.5kmのところで被爆した被爆経験者。

その被爆3世という自身のルーツから、

いつか原爆に向き合った作品を作りたいと思っていたそうです。

 

無数の白い手が浮かんでいるだけなので、

これまでの彼女の作品と比べると、シンプルな印象は受けるかもしれません。

 

 

 

しかし、照明が変わると、またガラッと変わった雰囲気に!

 

 

 

ふと、天井を見上げると、無数の光がふわふわと漂っています。

 

 

 

実は、白い手のオブジェの上部は鏡面になっており、

上から当てた照明が反射したものが天井に映し出されているのだとか。

なお、これらは、被爆者たちが見たという「人だま」をイメージしたものなのだそうです。

(個人的には、平和の象徴である鳩にも見えましたが)

 

さらに、照明は変化します。

 

 

 

強い光が当てられることで、

まるで壁に手の影が焼き付いたかのように。

 

 

 

ふと見れば、まるで自分の影も焼き付いているようでした。

この光景を目にした瞬間、もしや自分も死んでしまったのかも?!

と、そんな不思議な感覚に陥りました。

 


ちなみに。

この作品は、過去の冨安さんの作品とは違って、無音です。

耳を澄ますと、美術館の外の音、

例えばセミの鳴き声だったり、川の流れる音が、うっすらと聞こえてきます。

これまた不思議な感覚だったのですが、しばらく作品を観ていたら、

その美術館の外の音が、なぜか1945年の広島の音のように思えてきました。

 

 

お世辞にもアクセスが良いとは言えず。

さらに、駅からも距離があって、炎天下の中、

延々と歩くのは、なかなかの試練(?)でしたが。

それでも訪れて良かったです!

いや、むしろその工程を経たことで、

より、真剣に作品に向かい合えた気がします。

これがもし、都内でアクセスしやすく、

駅から数分でサラッと行ける立地にあったら、

作品から受ける感動は半分くらいだったかも。

この夏、是非観て欲しい展覧会の一つです。

(でも、皆さまは暑い日には無理しないでくださいね)

星星

 

 

 

 

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