はじめての、牛腸茂雄。 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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『ほぼ日』こと「ほぼ日刊イトイ新聞」が運営する、

渋谷PARCO8階のイベントスペース「ほぼ日曜日」にて、

現在開催されているのが、“はじめての、牛腸茂雄。”という写真展。

 

 

 

3歳の時に胸椎カリエスを患い、

身体にハンディキャップを抱えるも、

日本のコンポラ写真(※)の旗手として活躍。

その後、病で36歳で亡くなった牛腸茂雄の展覧会です。

(※コンテンポラリー・フォト。日常の何気ない被写体を誇張や強調をせず、あるがままに映した写真)

 

 

 

タイトルに“はじめての、”とありますが、

この展覧会が、初めて開催される牛腸茂雄展というわけではなく。

写真展に敷居を高く感じている人や、

牛腸茂雄という写真家を知らなかった人など、

初めての人にも、楽しんでもらいたいと企画された展覧会であるようです。

 

そのため、展覧会の冒頭では、

この展覧会で初めて牛腸茂雄さんを知ったという、

ギャグ漫画家の和田ラヂヲさんが案内人として登場します。

 

 

 

牛腸茂雄の魅力や、展覧会の見どころを、

ギャグ漫画家の目線で紹介してくれていました。

 

 

ちなみに。

展覧会に出展されている作品は、

代表作の『Self and Others』に掲載された写真を含む約100点。

 

 


これらはすべて、牛腸茂雄の友人で、現在世界でただ一人作品を現像できる、
写真家の三浦和人さんによって、この展覧会のために改めてプリントされたものです。

 

 

 

なお、今展では鑑賞者の皆様に、

プリントの美しさを直に楽しんでもらえるよう、

あえて、アクリル板で写真を保護していません。
手や息などが貴重な写真に触れないよう、

どうか気をつけてご鑑賞ください、とのことでした。

どこぞの環境活動家が襲来しないことを祈るばかりです。

 

 

さてさて、ここからは、牛腸茂雄の作品を観て行きましょう。

彼は、姉への手紙の中で、こんな言葉を残しています。

 

「僕の写真は見過ごされてしまうかもしれないギリギリのところの写真なのです。
 一見、何の変哲もないところで、僕はあえて賭けているのです。」

 

確かに、牛腸茂雄の撮るモチーフは、

有名人や事件といった特別なシーンではありません。

そこら辺にいる普通の人の、普通の一コマが切り取られています。

が、しかし、出来上がった作品は決して普通ではなく、

見れば見るほどジワジワくる、妙な味わい深さがあります。

 

例えば、こんな1枚。

 

 

 

柔道着を着た男性が2人、軽く笑みを浮かべながら、

謎の地下スペースからどこかに向かって歩いています。

一体どんなシチュエーションなのでしょう?

2に揃って、大会会場を間違えてしまい、

慌てて正しい会場に向かっているのかもしれません。

「だから、地下に会場なんてあるわけないって言ったじゃん!」

「いや、そうだよね。俺もおかしいと思ったのよ。」的な。

もしくは、地下に駐車場があって、

車に乗ろうとしたら、鍵を忘れて、引き戻しているところとか。

「車の鍵、ロッカーに忘れてきたと思ったら、

 そもそも柔道着を着替えるのも忘れてたわ。アハハ」

「そんなヤツいんのかよ!あ、って、俺もだ。アハハ」的な。

IPPONグランプリのお題になりそうな1枚です。

 

他にも、駐車場の片隅で、

セリフの練習でもしているような男性や、

 

 

 

全然会話が弾んでいなさそうな女性2人組など、

 

 

 

噛めば噛むほど味が出る写真が多々ありました。

個人的にお気に入りなのは、こちらの写真です。

 

 

 

最初のほうはクチャクチャって飛んで、

途中から何事も無かったようにスーッと飛ぶ飛行機。

まるで漫画の一コマか、アメリカのアニメのワンシーンのよう。

飛行機にキャラクター性が感じられるような、妙な可笑しみがありました。

 

 

また、双子の少女を映した代表作を筆頭に、

彼の写真の多くには、被写体とこちらとの絶妙な距離感があります。

 

 

 

それは、物理的な距離感であったり、心理的な距離感であったり。

心を開いているわけでないのですが、

かといって、拒絶しているわけでもない。

観ていて心が和むことはなく、でも、不快な感じは特にしない。

そんな絶妙な距離感です。

 

 

 

さらに、そういった絶妙な距離感は、

人だけでなく、犬に対しても発動していました。

 

 

 

飛行機の写真もそうですが、

どうしたら、こんな絶妙な場面を、

写真に収められることができるのか。

写真家としての腕前はもちろんとして、

牛腸茂雄はきっと、“もってる”写真家だったのでしょうね。

星

 

 

また、モノクロの写真だけでなく、

牛腸茂雄はカラーの写真も残しています。

 

 

 

ただ、カラーになると、不思議と、

モノクロ写真にあった絶妙な空気感、

抒情性のようなものが薄れてしまっていたような。

牛腸らしさは、あまり感じられませんでした。

カラー作品の中でしいて印象に残ったのは、こちらの一枚。

 

 

 

どこで撮ったものなのか。

何を撮ったものなのか。

まったくわかりませんでした。

一つわかったのは、

お昼の12時40分に撮影されたということくらいなもの。

あと、昔のパ・リーグの客席を彷彿とさせるものがありました。

 

 

ちなみに。

展覧会では、牛腸茂雄の私物や、

日記などプライベートなアイテムも特別に展示されています。

 

 

 

それらの中に、サインを練習したノートがありました。

 

 

 

これは本人にとっては、

絶対に観られたくないヤツでしょう(笑)





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