Book:44 『吾妻おもかげ』 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

 

 

■吾妻おもかげ

 

 作者:梶よう子
 出版社:KADOKAWA
 発売日:2021/11/24
 ページ数:336ページ

絵師を志すも挫折を味わった菱川吉兵衛。

気づけば十年もの間、

吉原と芝居小屋という「二大悪所」に入り浸る日々を過ごしていた。

そんな中、つらい憂き世をあえて楽しもうとする、

遊女たちの心意気に励まされた吉兵衛は、再び絵筆を執ることを決意する。

だが、ある日、巻き起こった大火に江戸の町が飲み込まれ…。

吉原の遊び人から成りあがった、江戸一番の絵師、菱川師宣。

時代を写し取り、浮世絵の祖となった男の波瀾万丈の生涯。
(「BOOK」データベースより)

 

 

《見返り美人図》で知られる“浮世絵の祖”菱川師宣の生涯を描いた小説です。

 菱川師宣も、彼の作品に関しても、

 それなりには知ってるつもりになっていましたが。

 そういえば、改めて、どんな絵師だったのか?

 そもそもその人物像については何も知りませんでした。

 

 この小説に描かれている菱川師宣の姿が、
 史実に沿ったものなのか、それとも作家によるフィクションなのか、
 実際のところはわかりませんが、この小説を読んだことで、

 自分の中で、確実に菱川師宣像が生まれました。

 それだけでも、この小説を読んで良かったです。

 

 さて、その肝心の菱川師宣像ですが、

 人間として好きになれるかというと、個人的にはう~ん・・・。

 千葉の片田舎から絵師になるという、

 決意をもって上京したものの、早い段階で挫折。

 その後は、10年近く、親の仕送りでドロップアウト生活を続けます。

 しかし、とある一件をきっかけに、

 絵師としての魂に再び火が灯り、再起を図ることに。

 そこからは、途中何度も困難に見舞われながらも、絵師の道を邁進。

 最終的には、絵師として革命的な成功を起こします。

 この辺りのくだりは、まるでTBSの『日曜劇場』を見ているよう。

 王道のサクセスストーリーといった感じでした。

 

 ただ、小説1冊分ゆえ、

 一人の絵師の生涯を描くには、
 駆け足になってしまうのは仕方のないところ。
 町絵師として輝かしい成功を収めてからの、
 ダークサイドに堕ちる(?)までのスピードが尋常でありませんでした。

 

 師宣のあまりの変貌ぶり、驕りっぷりに、
 読んでいて、若干・・・いや、だいぶとドン引きしました。

 こんなにも感情移入できない主人公も珍しいです。

 これが朝ドラなら、Twitter上で、

 「#師宣どんどん反省会」なるハッシュタグが盛り上がったかもしれません。

 

 菱川師宣が秘かに敬愛する岩瀬又兵衛との邂逅や、

 どこか憎めない魅力的なキャラとして登場する英一蝶など、
 小説内の見どころは多々ありましたが。

 やはり何といっても一番の見どころは、

 いろいろ経験した師宣が《見返り美人図》を描くシーンでしょうか。

 あの絵にそんな想い、ドラマが込められていただなんて。

 思わず心を打たれるものがありました。

 

 作者の梶よう子さんと違って、同じ絵を題材にしながらも、

 こんなくだらないモーソウしか思い浮かばなかった自分って。。。

 

 

 

 読みながら、若干・・・いや、だいぶと自分にドン引きしました。

 スター スター スター 半分星ほし(星3.5)」

 

 

~小説に登場する名画~

『好色一代男』の挿絵

 

 

 

 


1位を目指して、ランキングに挑戦中。
下のボタンをポチッと押して頂けると嬉しいです!

Blogランキングへ にほんブログ村 美術ブログへ