田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、千葉市美術館で開催されているのは、

“田中一村展―千葉市美術館収蔵全作品” という展覧会です。

 

 

 

2010年に千葉市美術館で開催され、

話題となった “田中一村 新たなる全貌” から10年―。

2010年の時点では、千葉市美術館の所蔵品の中に、

実は、1点も田中一村の作品は無かったそうなのですが。

その後、関係者の方々から、一村の作品や資料が寄贈、寄託されたのだとか。

2018年には、一村の最大の支援者であった川村家から多くの作品の寄贈を受けたとのこと。

そんなこんなで、この10年の間に、

千葉市美術館に収蔵された一村作品は、なんと100点を超えたそうです!

 

というわけで、10年という節目の機会に、

それらすべてを初めて一挙大放出しようというのが、今回の展覧会。

 

(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

神童の名を欲しいままにしていた “米邨” 時代の作品から、

奄美大島に単身移住し、その地で亡くなった50代60代の作品まで。

千葉市美術館が所蔵する一村作品が、1点も余すことなく展示されています。

星星

 

 

見どころは多々ありましたが。

まず1つ目の見どころはなんといっても、

一村にとって転換点となった 《椿図屏風》 です。

 

 

 

それまでの南画風のスタイルから一転。

どこか速水御舟を彷彿とさせる写実的で実験的なスタイルに。

のちの一村の片鱗が見て取れるターニングポイントとなるような作品です。

 

 

2つ目の見どころは、千葉時代に描かれた作品群。

 

 

 

奄美の画家というイメージが強い一村ですが、

実は30代から20年ほど、千葉県千葉市に住んでいました。

(千葉市美術館から徒歩30分くらいの位置だったそう)

特徴的だったのは、色紙に描かれた作品が多かったこと。

これらはお世話になった方々へと贈ったもの。

一般的に、そういった作品はサササッと描かれたものが多いのですが。

色紙でさえも、まったく手を抜かないのが一村。

どれも見ごたえがありました。

 

また、手を抜かないといえば、こんなものも。

 

 

 

一村が直接絵付けをした日傘や帯です。

やはり、これらもしっかりと描き込まれていました。

絵に対しては、一切の妥協がない人物だったようです。

 

 

3つ目にして最大の見どころは、

やはり、奄美時代を代表する傑作 《アダンの海辺》 でしょうか。

 

 

 

ゆったりと作品が観られるように、

広めのスペースにポツンと展示されていました。

ムンク展での 《叫び》 のような

マウリッツハイス美術館展での 《真珠の耳飾りの少女》 のような扱いです。

なお、少し距離を置いて右隣に展示されていたのは、一村自筆の添状。

この絵を描いた経緯や描き終えた際の状況が記されています。

また、追記として記されていたのは、

 

『アダンは亜熱帯の海濱植物 

 実は熟すれば芳香あれど人間の食用となる部分はあまりにも僅少

 野鳥の餌となるだけ』

 

と、アダンに関するWikipedia情報のようなものでした。

作品も緻密ですが、紹介も緻密。

それが田中一村です。

 

 

さてさて、展覧会のラストでは、こんなコーナーも。

 

 

 

田中一村展のポスターをはじめとする、

一村に関係する資料の数々が一堂に会していました。

実はこれらはすべて、一村の没後に制作されたもの。

生前一度も展覧会が開かれなかった一村。

しかし、テレビ番組で取り上げられたことがきっかけで、

再評価が高まり、現在ではすっかり人気画家の一人となりました。

無名の画家から国民的画家へ。

その軌跡がわかるコーナーとなっています。

 

 

 

個人的に興味深かったのは、

没後初の大々的な展覧会のキャッチコピーが、

「私は、絵の悪魔で、満足だ。」 であったこと。

フレーズといい、句読点の打ち方といい、

サイコホラー感を覚えてしまったのは僕だけでしょうか??

シリアルキラーかよ。

 

 

ちなみに。

もう一つ個人的に興味深かったのが・・・・・

 

 

 

手紙コーナーで紹介されていた年賀状に書かれていたこんな一文でした。

 

「御恵送頂きました千葉県特産海苔と落花生楽しく賞味して居ります」

「落花生は鼠の害で当地で全然ダメな為にとても高価です」

 

奄美大島に移り住んでも、心は千葉県民だったのですね。

 




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