上田 薫 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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本来の予定であれば、埼玉県立近代美術館にて

来年1月11日まで、開催されているはずだった企画展 “上田 薫” が・・・・・

 

(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)

 

 

新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ観点から、

12月23日をもって会期が終了となってしまいました。

残念ではありますが、その勇気ある決断を支持したいと思います。

 

さて、会期が年内で終了するとは、つゆ知らず。

12月22日に、のんきに取材してまいりました。

とても素晴らしい展覧会でしたので、

このままお蔵入りにしてしまうのは、もったいない!

そこで本日は、皆様に行った気持ちになってもらえるよう、

会場写真を交えながら、上田薫展を詳細にレポートしたいと思います。

 

 

さて、改めまして。

この展覧会は、《なま玉子 A》 や、

 

上田薫 《なま玉子 A》 1975年 油彩・アクリル、キャンバス 群馬県立近代美術館蔵

 

《ジェリーにスプーン C》 を筆頭に、

 

上田薫 《ジェリーにスプーン C》 1990年 油彩、キャンバス 埼玉県立近代美術館蔵

 

 

本物そっくり、いや、本物よりも本物らしい絵画を描く、

リアリズムを超えた 「クソリアリズム」 の画家・上田薫さんの大規模な個展です。

一応、言っておきますと、「クソリアリズム」 は上田さんご本人の言葉。

“対象そのものだけを写実的に描く表現” を指すそうです。

 

展覧会では、初期の作品から最新作まで、

代表作を含む約80点が、ほぼ年代順に紹介されていました。

東京藝大卒業後は、意外にも、抽象画を描いていた上田さん。

 

 

 

その後、映画ポスター国際コンクールで、

国際大賞を受賞したことをきっかけに、グラフィックデザインの世界へ。

しばらくは、絵画制作から離れていたそうです。

 

ところが、40代の時に、ふとした思い付きで、

貝殻を見えるがままに、油絵の具で描いてみたところ・・・・・

 

 

 

クソレアリズムの面白さに開眼したのだとか!

以来、さまざまなモチーフを、リアルに描くことに専念するようになります。

 

 

 

この段階でも、十分にスゴかったのですが、

上田さんは、クソリアリズムのバージョンアップを目指します。

いうなれば、クソリアリズム2.0。

 

描いたのは、スプーンから水飴やジャムが滴るその一瞬や、

 

 

 

割れた卵から中身がドロッと落ちるその瞬間でした。

 

 

 

技法自体は特に変わったわけではないですが。

動くものをモチーフにすることで、

つまりは、「時間」 を描いてみせたのです。

さて、2.0があれば、3.0もあります。

「時間」 という要素を取り入れたクソリアリズムを、さらに進化させるべく。

上田さんは、新たなチャレンジに挑みます。

 

 

 

それは、「光」 を描くというもの。

泡やシャボン玉をモチーフにすることで、

透過する光、反射する光、屈曲する光など、

さまざまな光を描き分けることに挑んだのです。

さらに、作品をよく見てみると、泡やシャボン玉の中に、

カメラを構える上田さん本人や、室内の様子が映り込んでいます。

つまりは、空間も複雑に描き込んでいるのです。

 

 

これまで上田さんの作品を目にする機会は何度かありましたが。

 

 

 

今回、改めてまとまった数の作品を拝見して、

何より驚いたのが、どの作品も、ちゃんと上田さんの作品だとわかるということ。

モチーフ自体はありふれたものなのに。

しかも、作風はただひたすら本物そっくりに描いているだけなのに。
(筆遣いや色使いに個性があるわけではないのに)

作品を見て、本物の生卵だ、本物の泡だ、と強く感じると同時に、

他のどの写実画家ではなく、上田薫さんによって描かれた絵だと直感的にわかるのです。

当たり前ですが、本物の生卵や本物の泡を見ても、そこまで感動することはありません。

しかし、上田さんの目と手を通して描かれた生卵や泡には、本物を超えた感動があります。

本物以上に、本物。

超一流のモノマネ芸人の芸を見ているかのようです。

星星

 

 

ちなみに、展覧会の最後の章では、

2000年代以降の作品が紹介されていました。

 

 

 

今年12月に92歳を迎えたという上田さん。

今なお現役で絵を描き続けています。

ラストに展示されていたのは、昨年に描かれた小品4点。

 

 

 

その中には、自身の後姿を描いたものも。

クソリアリズムを描き始めた頃にも、

自身の後姿をモチーフにした作品を描いていましたね。

それから50年経った後姿で、展覧会を締めくくるとは、なんて小憎い演出なのでしょう。

 

なお、会場出口では、

今展のために撮り下ろされた上田さんのインタビュー映像が紹介されていました。

 

 

 

なぜ、90歳を超えた今も、こんなにお元気なのでしょうか?

好きなことを、ずっとし続けてきたから。

立ち止まることなく、常に上を目指し続けたから。

いろんな理由があるのでしょうが、

感性が若いというのも、大きな要因ではないかと、僕は睨んでいます。

こちらは、上田さんが最近取り組んでいるというサラダを描いたシリーズのうちの一枚。

 

上田薫 《サラダ E》 2014年 油彩、キャンバス

 

 

サラダに使われている野菜がオシャレ。

キャベツやキュウリなんかは使われていません。

しかも、ライムやベリー類なんかも入っています。

お洒落カフェでしか見ないサラダです。

 




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