Book:26 『殺されたゴッホ』 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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殺されたゴッホ


■殺されたゴッホ

 作者:マリアンヌ・ジェグレ
 翻訳:橘明美、臼井美子
 出版社:小学館
 発売日:2017/10/6
 ページ数:455ページ

百二十年以上にわたって自殺したと信じられてきた、
ポスト印象派の巨匠フィンセント・ファン・ゴッホ。
しかしその死は、じつは他殺によるものだった!
画家ゴーギャンとの共同生活の失敗、弟テオに対する罪悪感や社会からの疎外感…。
2011年にアメリカで発表され評判となった新説に基づき、
ゴッホが残した手紙や日記類、彼をめぐるさまざまな人々の視点から語られる、
ゴッホの苦悩と情熱。
なぜ、誰にゴッホは殺されたのか?殺されなければならなかったのか?
ゴッホ最後の二年間と死の真相に迫る物語!
(「BOOK」データベースより)


稀にみる鬱小説でした (苦笑)

 ゴッホ最後の二年間はほとんど、イイことなし。
 貧乏だわ、孤独だわ、街から追い出されるわ、
 人に馬鹿にされるわ、挙句の果てに精神を病むわ。
 読んでて、終始どんよりした気分でした。

 で、肝心のラスト。
 タイトルの通り、ゴッホは殺されてしまいます。
 犯人は、2011年にアメリカで発表されたゴッホの死の新説で指摘された人物。
 この殺され方が、実にやるせないです。
 冒頭からずーっとどんよりしていましたが、最後の最後で特大のどんより。
 ドどんよりです。

 ゴッホの絵は、絵の具が盛り上がっているのが特徴的ですが。
 このゴッホの小説は、一切、盛り上がりがなかったです。

 とは言え、これぞ本当のゴッホの人生なんだろうなぁ、と思わせるリアリティはありました。
 小説を読んでいるというよりも、ドキュメンタリー番組を見ているかのよう。
 テイストとしては、『ザ・ノンフィクション』 。
 「サンサーラ」 が何度も脳内で再生されました。



 
 あと、この小説のせいで、イメージダウン必至なのが、ゴーギャン。
 彼にとって美味しいシーンは一つもなし。
 読み進めれば、読み進めるほど、好感度が下がっていきます。

 ゴーギャンのよく知られた絵の一つ 《ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ》

ひまわりを描くフィンセント・ファン・ゴッホ


 その裏側に込められた悪意が、小説内で浮き彫りに。
 確かに、指摘されてみれば、そういう風に見えます。
 これまで、この絵を2人の友情の証と思っていたのですが。
 うーん、真逆だったのですね。

 ゴーギャンや、ゴッホを殺した犯人だけでなく。
 耳切り事件後の担当医だった医師レーも。

 医師レーの肖像


 晩年のゴッホの担当医だった医師ガシェも。

 ガシェ


 人間的にどこか問題あり。
 登場人物が 「全員悪人。」 のアウトレイジ状態でしたが (←?)。
 唯一の救いが、ゴッホの弟・テオ。
 その献身ぶりに、心を打たれました。
 もう一度、「サンサーラ」 が脳内で再生されました。


 

 あくまで、これは小説ではありますが、読めば確実にゴッホ神話は崩れます。
 いよいよ来週から東京都美術館で “ゴッホ展 巡りゆく日本の夢” がスタートしますが。
 その前に読まないほうが、ベターです。
スター スター スター ほし ほし(星3つ)」


~小説に登場する名画~

《渓谷》

渓谷