備前刀剣王国 | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

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現在、静岡県にある佐野美術館では、“備前刀剣王国” という展覧会が開催されています。

備前


こちらは、平安時代から室町時代まで約400年にわたって、
名刀を生み出し続けた備前国 (今の岡山県) にスポットを当てた展覧会です。
各時代を代表する備前国の名刀の数々が、佐野美術館に大集結!
刀剣ファンにはたまらない内容となっています。

とは言うものの、一つ前の巡回先である刀剣博物館にて、
すでに “備前刀剣王国” を鑑賞済みだったので (それも前後期!) 、

「佐野美術館には行かなくてもいいかなァ。。。」

と、スルーしようとしていました。
ところが、出品リストを見ると、刀剣博物館ver.には1点も出展されていなかった国宝の刀剣が、
佐野美術館ver.では出展されるではないですか!それも6点も!!


というわけで、早速、佐野美術館へ。

佐野


会場には、もちろん刀剣がズラリ。
佐野美術館が誇る国宝の薙刀も展示されていました。

国宝 薙刀  国宝 薙刀 銘 備前国長船住人長光造 鎌倉時代 佐野美術館蔵
(↑画像をクリックして、波紋の美しさをお楽しみください)

どこか重厚感のある刀剣博物館の会場とは対象的に、
佐野美術館の展示会場は明るく清潔感のある印象です。
また、刀剣には一つ一つ丁寧に照明が当てられており、
それぞれの刀剣が緊張感をはらんだ端正な美しい光を放っていました。
その対比が、何よりも印象的でした。


さて、今回、ここ最近、刀剣に興味を持ち始めたものの、
まだまだ刀剣鑑賞ビギナーな僕のもとに、救いの女神が現れました。
幸運にも、佐野美術館の館長で刀剣研究者の渡邉妙子さんに、
マンツーマンで展覧会や名刀の見どころを教えて頂けることになったのです。

そもそも、なぜ備前が、刀剣王国つまり刀剣の一大産地になったのか。
その理由は、源平合戦にあると渡邉館長は言います。
平清盛の祖父に当たる平正盛やその息子・忠盛が国主を受領していたのが備前国。
貿易などで莫大な財力を得ていた平家は、源平合戦を含む戦乱に備えて、
一門の武士たちのための太刀を、自国である備前の刀工たちに大量発注しました。
刃長が70センチのものがあれば、90センチを超えるものもあり。
おそらく一人一人の武士の体格に合わせて制作されたと考えられているそうです。
もちろん、財力に物を言わせているので、クオリティは最高峰。
備前に名刀が多いのも納得です。

・・・と、ここで疑問が。
平家のライバルである源氏だって、刀を大量に作らせたはず。
備前と並ぶ刀剣王国がもう一つあってもおかしくないような。
実は、源氏は全国に散らばっていたそうで、それぞれで刀を発注していたのだそうです。
なるほど。それは、刀剣王国が他に誕生しないわけです。
ちなみに、源頼朝も備前の刀工である成高を重用していたのだとか。
まだ成高銘の刀はあまり確認されていないそうですが、
渡邉館長の今イチオシで、曰く、今後ブレイクする可能性が高いとのこと。
成高の名前は覚えておいて、損はありません。

太刀 銘 成高  太刀 銘 成高 平安時代~鎌倉時代


時は鎌倉時代に移ります。
鎌倉幕府の討伐を画策する後鳥羽院が、西面の武士を設置。
備前や備中から刀工を院に呼び、院内で西面の武士たちの刀を作らせました。
後鳥羽院自らも刀工たちと刀を造ることもあったそうで、刀工たちは感激。
こうして、後鳥羽院のためにと、刃文が華やかな刀が次々に作られるようになります。
一文字派の誕生です。

国宝 太刀 銘 吉房  国宝 太刀 銘 吉房 鎌倉時代 東京国立博物館蔵


刀紋の華やかさは、次第にエスカレート。
しかし、華やか過ぎる刃文の刀は、実践には不向きなのだそうで、
元寇が起きた時を境に、一転して刃文はシンプル路線に戻ることになるです。
はしゃぎ過ぎて (刃文が華やか) 、痛い目に遭って (蒙古襲来) 、シュンとする (波紋がシンプル) 。
そういうことを知った上で、時代順に刀を見るとオモシロいですね。


さて、蒙古襲来に備え、刀が大量に必要となります。
そこで、大工房を構え、需要急増に応えたのが備前の長船派です。
大量生産体制を取って刀を大量に作っているため、長船派の刀はピンからキリまで。
もちろん、今回の展覧会には、ピンしか展示されていません。

国宝 刀 金象嵌銘 光忠 光徳(花押)
国宝 刀 金象嵌銘 光忠 光徳(花押)/生駒讃岐守所持〈号 生駒光忠〉 鎌倉時代 永青文庫蔵


一見すると、刃文が華やかで、実践に不向きな気がしますが。
よく見ると、切先 (先端) の部分は、刃文がシンプルです。
華やかさもありながら、実戦向き。
それが長船派。


・・・と、その後、展覧会は南北朝時代、室町時代と続いていくのですが、割愛。
会場には、「日本刀の見方シート」 が用意されているので、
日本刀に興味が湧いた方は、是非ぜひ、佐野美術館に足を運ばれてみてはいかがでしょう。
都心から足を運ぶ価値はありますよ。
星星




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