● “セザンヌ主義―父と呼ばれる画家への礼讃 ” (後編) | アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】

美術を、もっともっと身近なものに。もっともっと楽しいものに。もっともっと笑えるものに。

前編 からの続き。

 


実体感のために その1  実際にしてみるべし!

 

【バーチャファイター】 を創るにあたって、
こんなエピソードが。

 

開発終了間近。
どうしても、リアルな戦いが表現が出来ていないことに、
納得のいかなかった開発リーダーは、スタッフにこう命令しました。

 

「パソコンに向かいあうのはやめて、
 全員パンチやキックの練習をしろ!」

 

というわけで。

翌日から、開発室では殴り合いの日々。


こうして実戦で得た動きを、ゲームに導入したことで、
【バーチャファイター】 には、“痛み” を感じるほどのリアルさが生まれたのです。
ちなみに、そのリアルさにより、

その解説書 『バーチャファイターマニアックス』 では、
武術研究家の松田隆智による拳法の解説がされているほど。

(もはや、ゲームの攻略本の域を超えています!)


 

そして、セザンヌも、まさにこれと同じことを。

 

例えば、リンゴを描くとき。


普通の画家の場合。
リンゴをよく見ーの。
じーっと見ーの、よくよくじーっと見ーの、
描きーの。

 

そうして描かれたのが、こちら↓

とに~の美術展へ行こう!Blog-カラヴァッジョ

 

まるで本物のような描写です、
でも、これでは、実体感は生まれていません。
(注:バカリズム風に紹介したせいではありません)


 

セザンヌの場合。
リンゴをよく見ーの。
じーっと見て、よくよくじーっと見ーの、
リンゴを取ってみーの、触りーの、感触や硬さを確かめーの、
再びリンゴを見つめーの、よくよく見ーの、
匂いを嗅ぎーの、
表面を舐めてみーの、
…(中略)…
またまたまたリンゴを見ーの、
描きーの。

 

そうして描かれたのが、こちら↓

とに~の美術展へ行こう!Blog-《りんごとナプキン》(一部)

 

うーん、お世辞にも、美味しそうには見えませんが。
しかし、ここにリンゴ(たぶん)が、
実際にあるように感じられます。
これが、実体感。



 

実物感のために その2  新しい表現技法に挑むべし!

 

【バーチャファイター】 の話をするならば、

何よりも、これを欠いてはならないでしょう。
それは、実際のゲーム画面をご覧頂ければ、わかります。


とに~の美術展へ行こう!Blog-バーチャファイター場面

 

【バーチャファイター】 の何よりもの特徴。
それは、キャラクターがポリゴンで描かれているということ。
このポリゴンという技術を使用することで、
3次元空間の表現が可能になったのです。

 

 (ポリゴン:多角形。三次元立体を多角形の面の集合で表現するコンピューターグラフィックスの技法。

       三次元立体そのものをも指す)

 

今ではすっかり当り前のこの技術。
本格的に最初に導入したのが、
何を隠そう、この 【バーチャファイター】 だったのです。
1993年当時のコンピューター技術では、人型のスムーズなアクションさえ珍しいというような時代。
そこに、突如として現れた、2体の人型が格闘を繰り広げるこのゲーム。
人々が度肝を抜かれたのは、言うまでもありません。
(僕も、“おもちゃのハローマック”で初めて見た時に、度肝を抜かれました)
 

【バーチャファイター】 に登場する3次元のキャラクターは、
お世辞にも本当の人っぽいわけではありません。
が、2次元のキャラクターよりも、実体感は間違いなくあります。
これにより、格闘シーンは、より実体感を伴うリアルなものへと進化したのです。

 

では、セザンヌはと言いますと。
まずは、こちらの1枚をご覧下さいませ。

 

とに~の美術展へ行こう!Blog-《ガルダンヌ》

 

これは、 《ガルダンヌ》 という1枚。
この絵を見て、

“あれっ、ポリゴンみたい!”

 

そう思われた方、鋭いです。
(決して誘導尋問ではありません)
セザンヌは、こんな言葉を残しているのです。

 

「自然は円筒と円錐と球によって作られている」

 

・・・・・。

ま、セザンヌが、そうだと言っているのですから、
とりあえず、ここはそういうことにしておきましょう。

 

セザンヌは、絵を円筒と円錐と球の表現の組み合わせで描きました。

多角形と球体という違いはあれど、

これは、まさにポリゴンと同じような要領。

 

とに~の美術展へ行こう!Blog-《ガルダンヌの村》

 


例えば、上の絵を見てみますと。
塔のような建物は円筒のようですし、
林立する木々は円錐のような形をしています。

 

このように描くことにより、
確かに、この絵の世界に塔や木が存在している気がします。


【バーチャファイター】 の初期のポリゴン技術同様、
セザンヌの描いた絵画世界も、
決して本物っぽさは感じられないのですが、実体感は感じられます。



 

実物感のために その3  やはり見るべし!見るべし!見るべし!

【バーチャファイター】 は、ポリゴン技術を使うことで、
闘いにリアルさを感じさせることに成功させました。
しかし、ただポリゴンのキャラクター同士の闘いを、
画面に映し出しただけでは、リアルさは伝わりません。
3次元の画面を、3次元であると認識させるために、
こんな方法が必要となるのです。

 

その方法とは、何か。

 

『ストリートファイターⅡ』 の格闘シーンと、

『ストリートファイターIIターボ』 より

 

【バーチャファイター】 の格闘シーンとを、見比べてみましょう。

『バーチャファイター3』 より


 

さて、違いがおわかりになりましたでしょうか?


注目すべきは、格闘シーンを映し出しているカメラのアングル。

『ストリートファイター2』 の場合、
格闘シーンは、常に一方向から、撮影されています。

これでは、奥行きが感じられず、
キャラクターたちの闘いの表現にも、限界があります。
ひいては、本当には戦っていないような気さえします。

 

一方、【バーチャファイター】 はと言うと、
カメラのアングルが、
横からやら上からやら、
近くからやら遠くからやら、
と、目まぐるしく変わっています。
ちょっと酔いそうなほどです…

 

このように格闘シーンを、多視点から映し出すことにより、
キャラクターが3次元で表現されているのが、よくわかりますし、
何よりも闘いそのものが、よりリアルに感じられるのです。

 

そして、もちろん、絵画界に3次元表現をもたらしたセザンヌも。
【バーチャファイター】と同じく、この多視点の手法を絵画に取り入れました。

何はともあれ、こちらの作品をご覧下さいませ。

 

とに~の美術展へ行こう!Blog-りんごとナプキン

 

これは、 《りんごとナプキン》 という一枚。
一見すると、普通の静物画のようですが…。
あれあれ??
しばらく見ていると、【バーチャファイター】 のゲーム画面と同じく、

何だか酔いそうな感じがしてきました。

 

その理由は、やはり、多視点によりこの絵が描かれているから。

 

画面中央に描かれた赤いりんご。
これだけを見れば、りんごと同じ目線で、正面から描かれているのがわかります。
ところが、一番左にあるりんご(梨?)は、

ちょっと上から見た感じで描かれています。
もっと全体に目を向けてみれば、テーブルの天板の傾き方から、

全体像は、少し離れた斜め上から俯瞰した目線で描かれていることがわかります。


このように、一枚の絵に、
たくさんの視点が存在しています。
これこそが、セザンヌが絵画に取り入れた新しい手法。
この手法を使うことで、3次元的に描かれた対象物が、
3次元的であることが、より強調されるのです。

 

おまけに、もう一枚。


                          《ラム酒の瓶のある静物》


 

とに~の美術展へ行こう!Blog-《ラム酒の瓶のある静物》


 

 

この一枚は、さらにたくさんの視点で描かれています。
そのせいで、テーブルの手前のラインは、
白い布を挟んで右と左が繋がっていません。
テーブルの上に乗っている果物たちも、
今にも、ころころと落ちて行きそうな気配。
【バーチャファイター】ならば、リングアウト確実です。

 

と。
そのようにテーブルの上の果物の行方を、
気にしてしまったのならば。
それこそが、まさにセザンヌの狙い通り!

そう思った時、アナタは2次元の絵画の世界に、
3次元の動きを感じてしまっているのです。
これが実体感のある絵ということ。



 

さてさて、こうしてセザンヌが、
美術界にもたらした革命的な表現。
これをピカソやブラックといった次世代の画家が発展させ、
美術史としては、“キュビズム” という美術運動へと流れていくのです。
(と言っても、円筒、円柱、球が、立方体(キュービック)に変わったくらいなものですが)


とに~の美術展へ行こう!Blog-《ポスターのある風景》

(ピカソ作 《ポスターのある風景》


今でこそ、美術界の花形のイメージがある印象派。
しかし、当時は、美術界の亜流でしかありませんでした。
そんな印象派の系譜を受け継ぐセザンヌの美術が、
まさか、その後の美術に大きな影響を与えようとは。
この時は、誰も知る由がなかったことでしょう。

 

それは、言うならば。
ゲーム界では亜流のジャンルでしかなかった格闘ゲーム。
その格闘ゲームの流れで誕生した 【バーチャファイター】 が、
ゲーム界に3D表現をもたらしたことで、
後の 『三国無双』 や、


とに~の美術展へ行こう!Blog-三国無双


 

『ファイナル・ファンタジー』


とに~の美術展へ行こう!Blog-ファイナル・ファンタジー

 

といった、その後の人気ゲームに大きな影響を与えたようなもの。


 

【バーチャファイター】 が、スミソニアン博物館に展示されているように、
横浜美術館コレクションの宝として、

 

 

とに~の美術展へ行こう!Blog-《縞模様の服を着たセザンヌ夫人》


 

《縞模様の服を着たセザンヌ夫人》
が展示されているのも、これで納得です。
(と、最後も横浜美術館で閉めてみました)



 

年末年始、家でゲーム三昧するよりも、
さぁ、“セザンヌ主義―父と呼ばれる画家への礼讃 ” へ行こう!

 

 

 
 

にほんブログ村 美術ブログへ Blogランキングへ

 

ランキング参加中です☆

今回のレビューを楽しんでいただけたなら、クリックお願いします。