5月12日 火曜日

 広い中庭で、木製の椅子に座って、満天の星空のもとランプの明かりで本読む。もちろん、すてきなことだけれど。
 狭いベランダで、プラスチックやアルミで出来た椅子、コンクリートをなでながら、星なんて見えるべくもない濁った灰色の空の下で煙草を吸うのだって、あながち悪いものではないのだ。
 ぬるい風も、よく冷えたアルコールも、けばけばしたジャケットも、べたついた床も、甘い期待も、関係ない。全ては気分次第だ、そう思える時だって確かにある。そう、よくあることではないのは確かだけれど。


堀江敏幸『おぱらばん』  読了