3月2日 月曜日

 彼には名前が無かった。だから名前のある皆がうらやましかった。

 しかし、暫くして彼は、名前を手に入れた。

 過去の王の名前だ。

 彼はその王として生きた。

 彼はその名前を生きた。

 名前は記号だ。現実と言う錯覚を手に入れる触媒。

 つまり虚構だ。

 現実の中では、その王の名は、彼の名ではない。

 虚構の中では、彼は王だ。

 だから、彼は虚構を生きた。

 彼は虚構だ。

 現実という名の虚構。もしくは、虚構という名の現実。

 彼は誰だ?