製作:1947年、脚本:スティーヴ・フィッシャー、監督:ロバート・モンゴメリー
■ はじめに
◆ 登場人物
フィリップ・マーロウ(ロバート・モンゴメリー) - 私立探偵
デレイス・キングズリー(レオン・エイムス) - 出版社の社長
クリスタル・キングズリー(-) - デレイスの妻
アドリエンヌ・フロムセット(オードリー・トッター) - デレイスの部下、編集長
クリス・レヴァリー(ディック・シモンズ)
ミルドレッド・ハヴィランド(ジェーン・メドウス)
ウェバー・ケイン(トム・タリー) - 警部
デガーモ(ロイド・ノーラン) - 警部補
◆ 補足
(最後の場面を除いて)本作は主人公が画面に登場しない。なぜかと言えば主人公の視点から見た映像で表現されるから。小説では主人公視点でのみ展開するものはしばしば見られるが映画では(私は)初めて。
ドアを開ける時には手だけが表示される。キスをするときには相手の顔が異様に近づいてくる。鏡を見ている時にはちゃんと全身が表示される。
本作はレイモンド・チャンドラーの原作があるが、本作の範囲で言えば「与えられた情報を論理的に突き詰めれば、すべて分かる」という構造になっていない。本作を見た範囲で解説。
同じチャンドラー原作の映画の「ブロンドの殺人者」ではフィリップ役はディック・パウエル。「ブロンドの殺人者」(の映画)も、わりと分かりにくい。
本作ではフィリップが殴られて酒をかけられる場面が二回ある。「ブロンドの殺人者」では殴られたりして気を失う場面が三回。
何しろチャンドラーの小説なので簡単なわけがない。映画化に当たっては、ストーリーのある程度の部分は省略されていると思われる。
■ あらすじ
◆ 案件依頼
フィリップに案件依頼が入りキングスビー出版社に出かける。編集長のアドリエンヌと会った。依頼内容は「一か月前に疾走した社長夫人クリスタルの消息」。デレイスからの依頼ではないのがちょっとばかり奇妙だが、アドリエンヌはなかなかの美人なので引き受けることにした。
アドリエンヌによると、クリスタルはクリス・レヴァリーという男と姿をくらまして、メキシコから「離婚手続きをしてクリスと結婚する」という電報がデレイスに届いた。そしてデレイスは、クリスタルの所在を突き止めるための行動を取っていない(らしい)。
そしてアドリエンヌはデレイスを正式に離婚させて自分がデレイスと結婚したいらしい。これがアドリエンヌが依頼主である理由。
その後、ベイシティのクリス・レヴァリーを訪ねるが「クリスタルとは二か月会っていない」と言う。しかし隙を見てクリスはフィリップを殴り倒し、酒をかけて車の中に放置した(らしい)。フィリップは気を失ったので詳細は不明。翌朝目覚めると飲酒運転のかどで警察署の中であった。
◆ クリス・レヴァリー殺害
上記の件を報告。アドリエンヌは「クリスタルが最後に目撃されたリトル・フォーン湖に行って調べて」と指示。その時にデレイスに来客があり、盗み聞きすると「その湖で別荘の管理人のビル・チェスの妻ミリュエルの水死体が見つかった」。その足にはクリスと刻印されたアクセサリー(⇒これは後ほど警察から得られた情報)。
アドリエンヌは「デリーの別荘がある個人の湖よ」と言う。「デリー」はデレイスのことと思われる。
フィリップが調べたところミリュエルには「ミルドレッド・ハヴィランド」という別名があった。ここまでの情報ではクリスタルとミリュエルは同じ男(クリス)を好きになったらしい。
フィリップはアドリエンヌの指示を無視して再度クリスを訪ねた。中に入ると不動産屋と称する女が階段から降りてきた。フォールブルックと名乗った。家賃が滞納されているとのこと。
いやそんなことより、拳銃を持っている。拳銃は「階段に落ちていた」そうである。フォールブルックは拳銃をフィリップに渡して立ち去った。
中を調べていくとA.F.(アドリエンヌ・フロムセット?)のイニシャルのハンカチが見つかった。さらにバスルームのガラスに弾が打ち込まれた跡があり、中にクリスが倒れていた。アドリエンヌが怪しいという状況となった。
◆ キングズリー社において
アドリエンヌは指示に反してクリス邸に行ったことを非難。フィリップはA.F.のハンカチの件を追求。「拳銃が見つかることを知っていただろ?」「口封じをしたのか?」。アドリエンヌは契約の解除を通知した。
その場にデレイスが現れた。そしてアドリエンヌが独断で依頼していたことを知った。離婚の意思はないそうである。今度はデレイスがクリスタルの件を依頼した。
アドリエンヌは「離婚させる意味がなくなった」「社長と破局したら、あなたに振り向くと思うの?」と支離滅裂状態。
フィリップはクリス殺害の事件をベイシティ警察に届け出た。
◆ フローレンス
フィリップはLAクロニクル紙の知人にミルドレッドの情報を依頼した。その後アドリエンヌを訪ねる。この時点ではアドリエンヌとわりと親密になっており電話番号を教えてもらう。注、契約は解除したのに!
このあたりでわりと唐突にアルモア夫人=フローレンスの死体が上がった話がでてくる。それを捜査したのはデガーモ。
LAクロニクルから殺害されたフローレンスの親の情報を取得した。注、依頼したミルドレッドの情報とはちょいと違う。
フローレンスの両親のグレイソン夫妻を訪ねる。しかし彼らは何も話したくないらしい。成果がないまま家から出たところ殴られて倒れた。
いや倒れる直前にデガーモの顔が見えた。また酒がかけられた。今度も飲酒運転になるかも。先般は「今度飲酒運転したら..」と警告されている。
酔っ払いが通りかかった。フィリップは酔っ払いを殴って、自分の身分証をポケットに入れた。そして公衆電話でアドリエンヌに助けを求めた。
◆ 「クリスタルから電話」
アドリエンヌに助けてもらってアドリエンヌ邸に行く。
そこにデレイスが訪ねてくる。なんで訪ねてくるのかは、理由がなさそうだが、とにかく訪ねてくる。「クリスタルから連絡があった」「金が要ると言っている」。
フィリップは指定された番号に電話する。「ピーコックルームというバーの近く」で会うことになるが、アドリエンヌは「二人も殺されてるのよ。会うのは危険」と警告する。注、本当は三人。
フィリップは米粒をばら撒いて行き先が分かるようにして、アドリエンヌがケイン警部と一緒に後をつけることになる。注、デレイスも一緒だと思うが明示はされない。
◆ ラスト
待ち合わせ場所。フィリップはクリスタルと称する女と会う。注、我々には分からないように後ろ姿になっている。
ある家に入る。その女が前を向く。クリスの家で会った不動産屋フォールブルック。拳銃を出して500ドルを要求する。注、500ドルと言っても現在の相場ではないが、さほどびっくりする金額ではない。
フィリップには、もう正体が分かっている。「お前はミルドレッドでクリスタルではない」「湖の死体はクリスタル」「フローレンスも殺した」と言う。
フィリップは「安全装置が外れてないぞ」と言って、一瞬ミルドレットが油断した隙に拳銃を奪い取った。注、ずいぶんと簡単だな。
立場が逆転したところで、ミルドレットは色仕掛けで騙そうする。そこに人が入ってきた。期待したケーンとアドリエンヌではなく、デガーモ。
デガーモは二人に拳銃を突き付けた。二人が殺し合ったように見せかけるつもりである。ここでもミルドレッドは、何かと色仕掛けでデガーモを落とそうとするが、もう無理。デガーモはミルドレットを射殺する。
そしてフィリップに拳銃を向けたところでケインが入ってきた。デカーモは射殺される。。
事件が解決した後、フィリップとアドリエンヌはニューヨークに旅立つ。
■ 事件の真相
ミュリエル・チェス。別荘の管理人ビル・チェスの妻。実はミルドレッド・ハヴィランドであり、不動産屋のフォールブルックでもある。注、そして医師の看護師。
ミュリエルはクリスと親密な仲。クリスと共謀してクリスタルを殺害し湖に遺棄。偽装するためにクリスからのアクセサリーを足に着けた。当初は「ミュリエルの死体」と認識された。
クリスタル殺害の目的は財産狙い。クリスタルを装ってデレイスに手紙を出した。
ミュリエルはフローレンス・アルモアも殺害。死体の発見場所は明示されないが「死体が上がった」とのセリフがあるので、おそらく湖。しかしフローレンス殺害の動機は(私には)不明。
フローレンスの件を捜査したのがデガーモ。ミュリエルはデガーモを誘惑した(と思われる)。注、だがしかし湖はベイシティ警察の管轄範囲外のはず。
ミュリエルは共謀者のクリスも殺害。
■ 蛇足
フィリップとアドリエンヌの二人の会話がわりと笑える。最初に会った時の帰り際。「キスしたいと言ったら?」「試してみる?」という会話が交わされるが実現せず。また後でアドリエンヌが「私たちの相性はばっちり」。
A.F.のイニシャルのハンカチは?アドリエンヌは関係を否定している。たぶん無関係なのだろう。
デガーモはどうしてフィリップがフローレンスの親に会いに行くことが分かったのか?
フローレンスの殺害は、本作では本筋ではない。しかし原作ではいろいろと展開するらしい。本作(映画)は原作からストーリーが若干修正されており、そのためか矛盾している部分や(私には)解釈不能の部分がある。「一年半前に自殺した女性」との記述がある。本作の範囲では不明。