■ なぜ在庫は必要か
「在庫とは何か?」。流通業、特に小売業を考えてみよう。小売業にとって在庫とは、自店舗で販売するために、予め仕入れて店頭に陳列したり、倉庫に保管している商品である。在庫がなければ顧客が商品が欲しいと店頭に来たときに販売することができない。
非常に高い商品や非常に特殊な商品であれば、顧客から注文を受けてから仕入れる方式もあるが、通常は予め商品を仕入れておいて、それを販売する。
製造業を考えてみよう。製造業においても小売業と同じように、顧客から注文があったときに、すぐに納品できるように製品を予め作っておいて保管しておく方式がある。これを製品在庫という。
一方で製造業においては、顧客から注文を受けてから生産する受注生産も広く行われている。その場合、製品を作るためには、部品や材料(以下、部品)が必要だ。ここでも部品を予め購入しておいて、すぐに生産に取り掛かれるようにしておく方式と、注文を受けてから部品を仕入れる方式がある。
あまり使われない部品やすぐに手に入る部品などは、注文を受けてから仕入れても良いが、よく使う部品やすぐには手に入らない部品は、予め仕入れておいて保管しておく。これが部品在庫。
在庫とは流通業でも製造業でも、顧客の要求に素早く対応するための商品・製品あるいは部品である。すなわち在庫とはモノである。もし在庫がなければ、顧客の要求にすぐに対応できず、販売機会を逃すことも大いにありうる。
この視点からいうと、在庫をできるだけ豊富に揃えておくことが必要である。
■ 在庫はなぜ悪者なのか
「在庫とは何か?」。商品や部品を予め仕入れて保管しておくためには、購入代金や保管費用がかかる。製品を予め生産しておくためには、生産のための費用がかかる。すなわち在庫とはカネである。
予め仕入れたり生産しておいたものは、顧客に販売できてはじめて費用を回収できる。その間にタイムラグがあり、その間は資金が固定化されてしまう。企業の運転資金が減少する。
さらに恐ろしいことには、仕入れたものや生産したものが、顧客に販売できない場合には丸損となる。「これは売れるはずだ」と思って仕入れたり、生産していても、見込み違いがある。売れるとは限らない。
この視点からいうと、在庫を持つこと好ましくない、危険である。したがって企業は在庫をできるだけ削減するようにと、涙ぐましい努力をする。
■ 在庫の二重性
「在庫とは何か?」。前に見たように、在庫とはモノであり、またカネでもある。
顧客の注文に迅速に答えるためには、商品や製品の在庫が必要であり、素早く生産を開始するためには、部品在庫が必要である。顧客の要求に答えられなければ販売機会を逃す。これがモノとしての在庫。
一方で在庫を持つことは、資金を滞留させ、経営を圧迫する。最悪には売れ残りの危険性がある。これがカネとしての在庫。
前者は在庫を持つように要求し、後者は在庫をできるだけ持たないように要求する。
このような在庫の二重性から、在庫を少なすぎないように、多すぎないように、適切にコントロールする必要がある。
在庫管理は多くの企業にとって非常に頭の痛い問題であり、多くの神経と労力を費やしている。
■ 在庫のコントロール
在庫をコントロールするのは、在庫数量で行うことと、在庫金額で行うことが必要である。お分かりのように前者はモノとしての在庫であり、後者はカネとしての在庫である。
営業部門や生産部門は、販売可能と見積もった在庫数量が確保できるか心配する。したがってモノとしての在庫を管理する。経営者は、運転資金が大丈夫かを心配する。したがってカネとしての在庫を管理する。
もちろん在庫数量と在庫金額は換算可能である。通常の業務においては、数量として管理し、必要に応じて金額として管理するのが在庫管理のあり方である。
両者の立場から、個々の商品の適切な在庫数量を導き出し、それにもとづいて在庫をコントロールする、これが在庫管理の本質であると言える。
■ 在庫情報の活用
今まで話したことは、在庫の現在の状態(数量、金額)を業務や経営の要請からコントロールすることだった。一方逆に、在庫の状態や流れを分析することによって、業務や経営に有用な情報を提供することができる。
それは売れている商品(売れ筋)、売れていない商品(死に筋)の把握である。この中でも不良在庫、不動在庫といわれる、ほとんど動きがないあるいは長期間動きがない商品の把握が重要である。いわゆる売れ筋、死に筋は販売管理データなど他の分析でも可能だが、不良在庫、不動在庫は、販売管理データからは掴みにくいからである。
そして不良在庫、不動在庫は、表面には出にくいけれども、資金を固定化させ、資金繰りを圧迫する元凶である。
■ 棚卸と在庫評価
帳簿やコンピュータシステムに載っている在庫数量は正確なのだろうか。入出庫をきちんと記録しておけば、在庫は必ず合うはずだが、現実には「実際の在庫と帳簿上の数量がなかなか一致しない」というのは、多くの企業にとって頭の痛い問題である。
不一致の原因は後に譲るが、その実際の在庫量を調査し、帳簿上の在庫との差異を明らかにすることを定期的に実施する。これが棚卸。決算書には、棚卸の結果の金額を記載する。
ここで棚卸時に調査した各商品の数量を金額に換算する必要がある。一見何でもないことのようだが、一つの商品を取ってみても、いろいろな時期にいろいろな価格で購入したものだ。単純にはいかない。在庫金額を計算するには、いくつかの方式がある。
■ まとめ
ここでは在庫管理とはどのようなものかということを、きわめて簡単にまとめてみた。今後テーマごとに解説する。
在庫管理は、企業の業務としても、コンピュータシステムとしても、いわば裏方であって地味な存在だが、実は非常に重要な存在であって、在庫管理の失敗は、企業の生死を左右することもおおいにあり得る。
■ 今回の画像
グレン・フォードの(1951)脱獄者の秘密/The Secret of Convict Lake/女性はジーン・ティアニー