■ Madame Curie


製作年:1943、原作:イヴ・キューリー(ピエールとマリーの次女)、脚本:ポール・オズボーン、パウル・H・ラミュウ、監督:マービン・ルロイ


■ はじめに

本作は「マリー・キューリーの伝記」ということになっているが、マリーの全生涯やマリーの研究生活のすべてを紹介するものではない→「補足」参照。

登場人物(キャスト)
 マリー・スクロドフスカ(グリア・ガースン)
 ピエール・キュリー(ウォルター・ピジョン)
 イレーヌ・キューリー(マーガレット・オブライエン) ピエールとマリーの長女
 ウジェーヌ(ヘンリー・トラヴァース) ピエールの父
 ソフィー=クレール(メイ・ウィッティ) ピエールの母
 ジャン・ペロー(アルベルト・バッサーマン) 教授
 ケルヴィン卿(C・オーブリー・スミス) ウィリアム・トムソン

細かいところでは、脚色がなされていると思われるが、それは問題ではないだろう。
 


■ あらすじ

◆ 授業中に倒れた

パリ、ソルボンヌ大学。ポーランド出身のマリー・スクロドフスカは物理学と数学の修士課程に在学中。

マリーはジャン・ペロー教授の授業中に倒れた。周りの人が駆け寄った。

ペロー教授の部屋で話した。倒れた理由は貧乏で空腹状態だったからである。ペロー教授は食事を奢ってくれた。

マリーは「遊ぶ時間がないので、友達もいないし、男性とも付き合っていない」と話した。自嘲気味に「興味は物理学と数学です」。

卒業後はポーランドに帰って教師になると言う。

ペロー教授は「金属の磁気特性を調べる研究員を募集している。よければ紹介する」と言う。それで若干の収入になる。

マリーは「ぜひお願いします」と言ったが、ただし実験設備はないので「物理化学学校の実験主任を紹介する。その部屋に間借り」という話になる。

実験主任の紹介を兼ねてパーティに招待される。

◆ ペロー教授のパーティ

会場に行った。エレヴェーターの前で髭の男性と一緒になった。お互いに知らないので会釈だけ。

中に入った。パーティとは言っても学者仲間のもので派手なものではない。マリーは初めてなので、みんなの前で紹介された。

ペローは髭の男性に「私の学生のことで相談がある。実験室を貸してくれ」という話をする。ペローの頼みなのでオーケーする。

それでマリーが紹介された。髭の男性はピエール・キュリー。ピエールはオーケーしたものの相手が女性なので嫌な顔をする。ペローが強引に頼み込む。マリーも頭を下げた。

その後ペローは別の人と話に行ったので、マリーとピエールは話しにくそうである。

◆ピエールの研究室

マリーはピエールの研究室のある建物に行った。そこで若い男性に会った。実はピエールの助手デイヴィッド。

デイヴィッドはまだマリーのことは知らないでペラペラしゃべった。「実験室に女性が来る。女性とは知らないで引き受けた。研究するなら女性とかかわってはいけない。女性の科学者に美人はいない」などと勝手なことを喋った。

しかしデイヴィッドは、マリーがその当人だと分かると、急にニコニコした。それからも何かと話しかけてくる。食事にも誘う。むしろマリーは迷惑顔である。

いや、しばらくするとピエールもマリーが気になっているようである。

◆ ベクレル博士

雨の日、ピエールが実験室から出てきた。マリーが立っている。ピエールはマリーが傘を持っていないのに気がついて相合傘で帰る。きちんと話すのは初めてである。

マリーはピエールに専門的な質問をする。ピエールはそれに答えるが、マリーは、さらに質問をする。ピエールはマリーの知力に舌を巻く。

実験室。マリーがいるところにピエールが出勤してきた。マリーに新しくできた自分の研究書のサイン本を渡す。マリーはそれを受け取って、すぐに自分の作業に戻るので、ピエールは拍子抜けする。本当は話のきっかけにしたかったらしい。

ベクレル博士が来た。「大発見をした」と興奮している。ピエールとマリーが聞きに行く。

瀝青ウラン鉱を使った実験をしていた。その実験に使う瀝青ウラン鉱を引き出しに入れておいた。その中にはカギと写真乾板が入っていた。そのままにしておいたが、写真乾板にカギが写っていた。瀝青ウラン鉱から光線がでている。

驚いて再実験したが同じだそうである。二人は「天然鉱物が光線を発するなんて」と話しながら研究室に戻った。

◆ マリーの実験は終了した。

マリーがピエールにあいさつ。「頼まれていた実験は終わりました。試験が近いので勉強に専念します」。半年間であった。

ここでピエールは「自分の実家がパリ郊外にある」と誘う。しかしマリーは誘われたことに気がついていない。

マリーは「卒業したらワルシャワに帰って教師をする」と言うとピエールは慌てる。

ピエールはわりと強引に「教師には誰にもなれる。君はそれ以上の者になれる。科学の進歩に才能を生かすべき」と言う。もちろんピエールは、それだけの理由ではなく、マリーが好きなので、このようなことを言っている。しかしマリーは気がついていないようである。

マリーは「卒業式に来てください」と言って立ち去った。

◆ マリーは卒業

卒業式。ピエールは「忙しくて行けない」と言っていたのだが卒業式に来た。卒業生、教師、その他学生など込み合っている。

成績優秀者の紹介がありマリーはトップ。しかしそこにはマリーはいないようである。

デイヴィッドがいたのでマリーのことを聞いた。「今頃は家で荷造りをしている」。

ピエールはマリーのアパートに駆けつけた。荷物をまとめている。以前にあったようにマリーにパリに残るように言う。しかしマリーの考えは変わらない。

出発は火曜日だとのことで、ピエールは「実家に来ないか?」と誘った。

◆ ピエールはマリーにプロポーズした

マリーがピエールの実家に行くと家族から大歓迎。

ピエールの母親はマリーの事情を聞いており「帰国しても研究を続ければよい。あなたならできる」と言う。また「ポーランドに帰るのを遅らせて、ここにしばらくいれば」とも。

ところでピエールは?ピエールは何かを考えているようである。ウロウロと動き回っている。

しかし何を思ったかピエールは階段を駆け上がって、マリーが泊っている部屋のドアを強くノックした。

何事かと顔を出したマリーに一気に喋った。「パリを離れるな、君がいないと研究が進まない、私は短気だが、君は忍耐強い。二人がいれば塩化ナトリウムのように安定する」。素人には分かりにくい言葉ではあったが、ピエールらしい表現である。

マリーは驚くが、ピエールはさらに「素晴らしい考えがある。研究を一緒にやっていこう。私と一緒になってくれ」とプロポーズした。

マリーは頷いた。その場のピエールの迫力に押されただけではないのだろう。

家族は一階の居間でなにごとかと集まっている。

◆ 新婚旅行

二人は結婚した。内輪だけの質素なものである。そして新婚旅行。二人は自転車に乗っていく。二人はいろいろなところに行って楽しそう。

しかしこの二人である。「これからの研究をどうするか?」とかそのような話が出てくる。

マリーは修士課程は修了したので博士課程に進むことになる。何を研究課題をするか。マリーは先般のベクレル博士の実験のことが気になっているようである。

◆ 測定結果が合わない

マリーは研究を開始した。しかし「測定結果が合わない」と悩んでいる。

元素ごとに測定した結果の合計と、まとめて測定した結果が、本来は一致するはずだが、何度計測しても合わない。「200回も測った」と言っている。

二人は家に帰った。「家にいる時は仕事の話はしない」と言うのが約束だが、それでも気になる。何かと、その話題になる。ピエールは「電位計がおかしいのでは?」とヒントを出すが、マリーは否定する。

ピエールの両親が来て、和やかに話すが、やはり気になる。しかしミスに気がついて、両親を置いて研究室に走った。

家で気がついたことも、実は間違っていたのだが、しかし二人は「元の試料に未知の物質が混じっているからでは?」と考えた。

「それがなんであるかはまだ不明であるが、何かがあることは分かった」という状態である。二人は、これを「ラジウム」と名付けた。

◆ 新しい研究室、実はボロボロ研究室

実は、このようにしている間にも、個人的にはイレーヌの出産とピエールの母親の死亡という事件があった。

上記の発見は、一応このレベルで大学・学界に報告する。まだ先に研究を進めなければならない。

さてもう一つの問題。今までの研究室が使えなくなり、新しい研究室が必要となった。

大学側からは「ロジェ教授が使っていた小屋」という提案がなされる。しかしそれは以前は医学校の解剖室に使われていたもので、雨漏りがするほどの建物である。

しかししようがないので、二人はその実験室を使うことになる。

◆ マリーが病気

さて最終目標は瀝青ウラン鉱から、二人が「ラジウム」と呼んでいるものを分離することである。

雪が降っている中を戸外で作業する。瀝青ウラン鉱を炉で熱して溶かす。酸を加えて、余分なものを少しずつ分離していく。

文章で書けば一行だが、手間がかかるキツイ作業である。このような作業が何か月も続く。家に帰れば疲労困憊状態。

二つの元素が残った。バリウムとラジウムが含まれているはず。しかし分離は起こらない。

1900/07/16、458回目の作業。ピエール「これは無意味だった」マリー「私はあきらめない」。

さてここでマリーの指に異常がみつかる。実験を三年半続けている。放射線を浴びていたためである。

自覚症状としては痒みがある程度だが、医者に行くとガンになる可能性を指摘される。ピエールの母親もガンで死亡した。

ピエール「実験をやめよう」マリー「ラジウムは治療にも使えるかもしれない」。ここの話は作られたやりとりのような気もするが、とにかくマリーは実験を続ける。

幸いなことに。マリーの指はそのうちに自然治癒した。

◆ 多段階分離を試みる

さて上記の方法がうまく行かなかったので、今度はバリウムとラジウムを多段階に分離する方法に切り替えた。

試料を水溶液にして水分を蒸発させる。バリウムが少し取り除かれる。さらに同じことを繰り返す。注、ここははっきりとは説明されないので、私にも分からない。

多数の作業を続けた。二年間。

どんな立派な発見・発明も、つまらないと思える作業の積み重ねである。加えて創造的な考えが必要である。さらに、それで成功が保証されているわけではない。そのような辛い作業である。

しかしそれでも二人には成功に近づいているように思えてきた。最終段階のように思えてきた。

◆ ケルヴィン卿

さて、このあたりでペロー教授が訪ねてきた。高名な物理学者のケルヴィン卿を同行している。

二人は実験の内容を説明した。「元は八トンのウラン鉱。四年かけて取り出した。そして分離作業を5677回繰り返している。もうすぐ」。

ケルヴィン卿は二人を励まして帰った。

◆ しかしラジウムが分離されていない

最後の分離作業が終わった。これで水分が蒸発すれば、ラジウムが抽出されるはずである。

二人は研究室の片隅で眠った。夜が明けた。午前五時。結果を確認しに行った。しかし皿の中にはなにもないっ!皿の中にはなにやらシミのようなものがごくわずかにある。

「間違いはないはずなのに」「四年間も頑張ってきたのよ」。

◆ 年越しパーティ

二人は家に帰ってくる。注、この時には次女のイヴが生まれている。

メイドが「イレーヌが寝ない」という話をする。マリーは疲れ切っているので、ピエールがイレーヌと会い、次のような話をする。

呪われた石に閉じ込められている宝物。それを見つけるのは金髪の髪をしたお姫様。お姫様を助ける男性。

イレーヌは「それは王子様?」

「王子様ではない。お姫様に出会うまでは孤独だった男」。

話を聞いているうちにイレーヌは寝た。

注、ここの話も作られたものという感じがするが、それはよい。

さて年越しのバーティがある。デイヴィッドも来るらしい。「そんな気分じゃない」とマリーは言うが、ともかく二人はパーティに出かけた。

◆ 成功っ!

パーティが終わって戻ってくる。「何もかも忘れて眠ろう」「だめよ、どうしても納得できない」。

計算では「一つまみほどの結晶」が残るはずだった。「予測量の計算が違っていたかも?」と二人は研究室に出かける。

まだ真っ暗である。注、真っ暗だったのがポイント。

例の皿が暗闇の中で光っている。「あれがラジウムよっ!」と喜んだ。注、抽出されるラジウムの量の計算が違っていた。

◆ 研究室の贈呈

さてしばらくたって。二人の成果は学会に認められ、メディアにも発表された。

別荘にマリーがいる。記者が訪ねてくる。「キューリー夫妻に会いたい」。

マリーは「休暇中だから無理よ」。しかし記者は強引に入ってくる。マリーは「大学が新しい研究所を彼女に提供した、最新設備と助手、来週に贈呈式」と他人の振りをして喋った。

記者は帰るときに「本人に取材できれば、もっと良かった」「本人と話したと会社に報告してもいいわよ」。

◆ ピエールが死亡したっ!

1906年4月19日。研究所の贈呈式が行われる。午後六時半。雨が降っている。

マリーは、着たこともなかった、おしゃれなドレスを着ている。

ピエールは贈呈式の前に用事があるのででていく。

ピエールはイヤリングのプレゼントを買った後、通りを横断した。しかしここで走ってきた馬車に轢かれたっ!

大勢の人が駆け寄ってきた。しかしピエールは死亡した。

マリーは自宅で「ピエールの帰りが遅い」と言っている。

ペロー教授が来た。父親となにか話している。マリーが入ってきた。「ピエールが死亡した」。

マリーは呆然。

ペロー教授は「ピエールの思いを考えろ。君の前進を望んでいる」。マリーはピエールが死の直前に買ったイヤリングを見つめた。

◆ ラスト

この後は、ずっと時間が飛んで、マリーが大学で「ラジウム発見25周年の記念講演」をするところ。
 


■ 補足

◆ 本作の内容

本作の内容は以上の通りで、普通の伝記ならば、次のようなことも入れるだろう。しかし私は本作を批判しているわけではなく、これでよいと思っている。

1.大学入学まで
2.ノーベル賞受賞
3.出産
4.ラジウム発見以後
5.死亡

本作は124分あり、上記の事柄を入れるとすると3時間くらいにはなるだろう。また焦点がぼやけてしまう。

それと本作には日付がほとんど入っていない。これは入れてほしかった。


◆ ケルヴィン卿/ウィリアム・トムソン

本名はウィリアム・トムソン。有名な天才物理学者。彼がいかにすごい人物か。絶対温度をKelvin温度というが、彼に由来する。業績を認められて爵位を貰ってケルヴィン卿となった。

1.熱力学関係で大きな業績。生涯に書いた論文数が700くらいでトップクラス。オイラーやガウスはもっと多いが、それに迫っている。

2.多くの特許を取得した。理論的なことにも強いが、多くの特許を取得している。非実用的なものではなく、実用的な特許で特許料もかなり入ったらしい。

3.大西洋の電信ケーブルの敷設プロジェクトを指揮した。

4.他の学者の発掘。1.ニコラ・レオナール・サディ・カルノーの業績を発掘。いわゆる「カルノーサイクル」として知らせるカルノーの論文を発見して紹介。2.ジェームズ・プレスコット・ジュールの紹介。ジュールは酒造業者。素人ながら専門的な研究をしていたジュールを発掘して紹介した。この二人はケルヴィンがいなければ、世に知られることはなかったはず。

◆ ノーベル賞を二度受賞

マリー・キューリーは二度ノーベル賞を受賞している。

1903年:物理学賞(ピエール・キュリー、アンリ・ベクレルと共同受賞)
1911年:化学賞

なお娘のイレーヌ・ジョリオ=キュリーも1935年のノーベル化学賞を夫と一緒に受賞している。

さて二度もノーベル賞を受賞した人物が他にもいる。一応2020年現在。

ジョン・バーディーン。物理学者。物理学賞(1956、1972)。

フレデリック・サンガー。化学者。化学賞(1958、1980)。

ライナス・カール・ポーリング。化学者。化学賞(1954)、平和賞(1962)。