■ ハートブレイカー
別れさせ屋アレックスの今回のターゲットはジュリエット。
もうすぐ結婚式。相手は金持ち、美青年。なによりもジュリエットがぞっこん。
かなり難易度が高い仕事である。はたしてうまく行くのかっ!


製作:1988年、脚本:ローラン・ゼイトゥン、ジェレミー・ドナー、ヨアン・グロム、監督:パスカル・ショメイユ  予告編   予告編   フル動画  


■ はじめに

本作は「別れさせ屋」の話。付き合いをしている男女がある。この付き合いを好ましくないと考える人物から依頼を受けて、(本作では)女性に近づき好意を抱かせてカップルを別れさせる。

この手の映画の結末は決まっていて、別れさせ屋と女性が結局本当に好きになるというもの。本作もこの例の通りでありステレオタイプとの批判が免れるわけではないが、しかし本作はちょいと違う。

本作の別れさせ屋はアレックス(ロマン・デュリス)。髭を生やした魅力的な風貌。しかしアレックスは一人で活動しているのではない。企業として別れさせ屋をやっている。ここが並みの別れさせ屋と違うところである。

アレックスの姉のメラニー(ジュリー・フェリエ)とメラニーの夫のマルク(フランソワ・ダミアン)がアレックスをサポートしている。

企業と言うにはかなりの零細企業。しかしアレックスの魅力とテクニックに加えて、彼らのサポートが大きい。大きな成果を上げている。

冒頭の場面、舞台はモロッコ。恋人と旅行に来ている女性。その女性の前に現れたのが当地で医療活動をしている医師。貧しそうな子供たちを診ている。もちろんアレックス。そのもとで働いている看護師、これはメラニー。子供たちは、金を渡して動員したもの。わざとボロ家に見せかけた病院も借りたもの。アレックスと来た女性にメラニーは「お似合いね」と言う。

アレックスと女性は砂漠に行き雄大な風景を眺める。目の前の空にハトが飛び立って、その女性を感動させる。実はメラニーとマルクが隠れてハトを飛ばしていたりする。

その他にアレックスがいろいろな女性と接触して成果を上げている場面が紹介される。
 


■ あらすじ

さて今回のターゲットはジュリエット(ヴァネッサ・パラディ)。依頼主は父親(ジャック・フランツ)。花の卸売商。

ジュリエットの相手はジョナサン(アンドリュー・リンカーン)。イギリス人。若くして富豪になり自家用ジェット機も所有。風采もよく優しそうである。なによりもジュリエットがぞっこんである。つまり簡単に言えば、アレックスにとっては、きわめて難易度が高い仕事である。

しかも期限は10日。結婚式が決まっている。

彼らは父親から情報の提供を受け、さらに二人の行動を調べる。ジュリエットが捨てたゴミも拾う。アレックスは「父親に雇われた用心棒」と言って近づく。しかしジュリエットはアレックスをまったく無視。

ジュリエットの車の前にバイクが立ちはだかり、バイクの黒覆面男が下りてきてガラスを破りジュリエットを殴り倒して車を奪って逃走。そこに現れたアレックスが車を追いかけ男を倒して、車を運転してジュリエットの元に戻ってきた。バイクの男は実は女性でメラニー。

これで二人は一緒に車に乗る仲となった。二人の車をメラニーとマルクが乗った放送設備を持った車が追いかけて音楽番組を流す。DJはマルク。もちろん好みは調査済み。ジュリエットは音楽に合わせて指でリズムを取っている。

しかしジュリエットもなかなか手ごわい。用心棒ということなので緊急時の合図の言葉として「バッグ」を決めた。さっそく「バッグ!」とジュリエットの黄色い叫び声が飛んできたので、アレックスが慌てて駆けつけると、ジュリエットが数人の友達と一緒にいて「ほら、来たでしょ!」と楽しんでいる。

ジュリエットはホテルに泊まりアレックスは隣の部屋を確保した。メラニーは、ホテルの客室係、フロント、ウェイトレスなどなど大活躍、タクシー運転手までもやっている。

ジュリエットの部屋のエアコンを細工して冷房を我慢できないほどに強くした。修理屋があられる。もちろんマルク。マルクはさらにエアコンを壊して冷水が部屋中に降りかかる。ジュリエットは「別の部屋を」と電話するが、それをメラニーがカットして「空部屋はありません」。

ジュリエットはアレックスの部屋で一夜を過ごすことになるが、ここでジュリエット好みの映画を見たりして、二人はかなり親しくなる。パチパチパチ。

さてここで重大な障害が発生する。事前調査で取りこぼした情報である。ジュリエットの親友のソフィ(エレーナ・ノゲラ)。一言でストレートに表現すれば「色情狂」。大事なところでアレックスの部屋に「エアコンが壊れたの」と言って乱入してくる。

すごいパワーで押しまくる。さすがのアレックスもたじたじである。危ういところでマルクがソフィを後ろから殴り倒して、なんとか凌ぐことができた。

ジュリエットとアレックスは、かなり親しくなったというものの、まだまだである。結婚式が迫ってくる。おまけに二日早めてラスヴェガスに行って結婚式をすると言い出した。

 


■ 蛇足

父親がジュリエットにジョナサンのことを「頭は切れる、見た目も悪くない、何よりやさしい」と言う。そして「だが退屈な人生だ。お前の得るものが何か分からない」と付け加える。

しかしこれは父親が言う言葉でない。少なくとも別れさせ屋に依頼するような理由ではない。むしろ娘が父親に言う言葉である。ちなみに母親は10年前に死亡しているという設定。

実はジュリエットとソフィはレズでもあるというおまけがついている。アレックスは、この事実を知って「ジュリエットは制御された休火山だ」と意味不明の言葉を吐く。「制御された休火山」とは語義重複だが、意訳すれば「表面化していない危険性を持った人物」と言ったところ。

メラニーとマルクがバーで初対面のふりをして誘惑しあう場面がある。「浮気願望はある?」。この場面がなかなか面白い。

本作はフランスでの観客動員数が370万人、フランスの人口は7000万人いかないので、かなりのヒット。

DVDにヴァネッサ・パラディのことを「ジョニー・デップのパートナー」と書いてある。本作は2010年で、二人は結婚はしなかったけれども、この時期には一緒にいて、また子供も二人いる。しかしこのような紹介の仕方はヴァネッサ・パラディに対して失礼である。

本作の英題はHeartbreaker。これとは別にHeartbreakers(←複数形)がある。これはシガニー・ウィーヴァーが「セクシーな結婚詐欺師」を演じるもの。「彼女がセクシーな結婚詐欺師をできるのかっ!?」との意見があろうが、こちらはコメディ。
 


■ 追加

ヴァネッサ・パラディ。「白い婚礼/Noce blanche(1989)」「エリザ(1995)」「奥サマは魔女(1997)」「ハーフ・ア・チャンス(1998)」「エイリアンVSヴァネッサ・パラディ(2004)」。