■ 繰返し生産組立て型製造業の生産方式
 
 
 
本稿は、某業界・某団体で講演したものを業種固有部分を削除し生産管理の部分を付け加えたもの。
講演なので、詳細な展開はしていない。ごく概略であることをご了解いただきたい。
 
□ 製造業を取り巻く現状
 
◇製造業の現状
 
ニーズが多様化している。現在は消費者のニーズの多様化が進行しており、企業としては、消費者のニーズを的確に掴んで、対応していくことが必要である。
 
製品寿命が短くなっている。ニーズの多様化と並行して、製品・商品寿命が短くなっている。メーカとしては、新製品を市場にすばやく投入することが必要である。
 
右肩上がり時代が終わった。背景としては、人口が増加から停滞へ転じるということがある。将来的には減少に転じる。これを前提に企業戦略を構築する必要がある。
 
海外特に中国との競争。中国は、低い人件費を武器に世界の工場となった。ヨーロッパでは、工場が東へ移動していくということがあるが、日本やアジアでは中国の影響が大きい。中国の低い人件費に対抗していく戦略が必要である。
 
◇組立型製造業の現状
 
製造業にもいろいろある。食品、化学、金属、機械、電機。これらの製造業は、生産の仕方が異なっている。例えば化学は、プラントを使って化学物質を合成したり、分解したりする。
 
一方、機械や電機では、部品・材料を買ってきて、加工・組み立てて製品を生産する。加工・組み立て型製造業とか組立型製造業といわれている。このタイプの製造業が数が多い。
 
組み立て型製造業は、特に海外との競争に晒されている。その理由は、次のとおり。
 
1.組み立ての技術は、比較的簡単に習得できる。逆に例えば微細な機械加工技術や成分が微妙で均質で優れた材料などは、簡単にマネができない。
 
2.さらに、組み立ての技術は習得できなくても、「低コスト」という武器で克服できる。例えば生産性が悪くても、賃金の低い従業員を雇うことできれば、これを克服できる。
 
ここにおいて、組立型製造業が強みをどこに求めるのかということが問われている。
 
 
◇要求される生産体制の条件
 
組立型製造業の現状から、要求されている生産体制の条件が導かれる。
 
1.短納期
2.低コスト
3.多品種少量生産
 
これをもう少し展開すると次のようになる。
 
1.小ロット(一回の生産量が少なくても)でも、低コスト同じコストで生産できること。
 
2.在庫を削減すること。製造業の在庫は、製品在庫、部品・材料在庫、仕掛在庫があるが、これらすべてが対象である。前二者は生産管理など全般的なことに依存し、最後は生産方式に依存する。
 
3.生産品種切り替えコストの削減。多品種時代には、生産品種の切り替えが多くなるので、これを削減する必要がある。
 
4.生産量の変動に対応する。受注量の変動だけではなく、納期や数量の変更にも対応できる体質が必要である。また変動自体を少なくする努力も必要である。
 
5.生産リードタイムを短縮する。短納期を実現するためには、納期の主要な部分である生産リードタイムの短縮が必要である。また計画機能の高度化が必要である。
 
 
 
□ 生産管理
 
◇生産管理とは何か
 
生産管理が行う主要なものを上げる。
 
1.生産計画の作成
2.部品手配指示
3.生産指示
4.生産進捗状況のチェック
 
工場内のオフィス業務であり、少し範囲を広く取れば、購買や品質管理なども生産管理ということができる。生産管理業務は、今日では生産管理システムというコンピュータシステムを中心に動いている。
 
また生産管理業務とは、別の見方をすれば、他の部門と調整を行う機能である。他の部門とは、営業部門、購買武門、生産部門、協力工場、倉庫などである。生産管理は、これらの間で調整を行い指示をする。工場における情報は生産管理部門を中心に回っている。
納入までのプロセスとリードタイム
 
納入までのプロセスは次のように表すことができる。
 
受注
↓ 計画リードタイム
生産計画作成・部品発注
↓ 部品調達リードタイム
部品入荷・生産指示
↓ 生産リードタイム
生産完了・出荷指示
↓ 納品・物流リードタイム
納品
 
生産計画を立てるということは、生産完了の日を決定することである。それから遡って生産指示を出す日、すなわち部品がそろっていなければならない日を決定することができる。さらに遡って部品発注をしなければならない日が決定される。
 
計画リードタイム、部品調達リードタイム、納品リードタイムは、生産管理など全般的なことで規定される。生産リードタイムは生産方式や生産の仕方で規定される。
 
計画リードタイムは、生産計画作成のサイクルに依存する。受注すれば即座に計画に反映されるわけではない。どの程度のサイクルで生産計画が作成されるのか。見込み生産では、一ヶ月に一度あるいは二週間に一度くらいのサイクルである。最近は需要変動に対応するため、短くなる傾向がある。受注生産の企業では二日や一日に一度生産計画を作成する。見込み生産の企業において、計画リードタイムを短縮するためには、需要予測の体制・精度を整えることや部門間の連絡を密にする必要がある。
 
部品調達リードタイムは、部品メーカとの関係を良くする等が言われているが、基本的には変更することができない。これをカバーしようとすると、在庫を持つことになるが、在庫負担が増す。実際には使用数量、リードタイム、重要度や価格でランク付けして、在庫の範囲を決定する。
 
納品リードタイム。こちらもアウトソーシングや共同配送などが言われているが、基本的には変更することができない。また他のリードタイムに比較して短いので、この意味ではそれほど問題ではない。
 
これらを考慮すると、多くの場合には、納品リードタイムを短縮するには、生産リードタイムが問題であることが分かる。
 
 
◇MRP(Material Requirements Planning)
 
製品を生産するためには部品が必要。多くの部品は購入されるが、自社で生産する部品も存在する。これを中間製品という。
 
中間製品を生産するためにも部品が必要。すなわち製品を中間製品・部品へと展開していって、前述した生産リードタイム、調達リードタイムを考慮すれば、どの部品をどの時点でいくつ発注しなければならないかが計算できる。
 
この所要量計算は、実際にはまだいろいろなことを考慮して行われるが、基本的な考え方は、このように要約できる。
 
 
◇MRPの問題点
 
 
MRPの問題点の一つは、工場の稼働能力と稼動状況を考慮していないということである。これはMRPの生産リードタイムとは何かということに集約される。
 
生産リードタイムは、実際の生産の時間ではなく、他の製品も生産しているので、大体これくらいで生産できるだろうという予想時間のことである。オフィスの中で考えると、例えばある作業を頼まれたときに、一時間で終わりそうだけれども、他の仕事もあるので、明日の帰りまでに仕上げますというようなものである。
 
実際の生産は生産リードタイムのどこかで行われるが、どこで行うかは、現場任せにしようというコンセプトである。
 
その結果として、MRPは、部品を早めに調達してしまう、直近の場合には生産可能でも生産不可能と判断することがある。
 
 
◇製番管理
 
 
日本独特の生産管理方式。製番とは製造番号すなわち製造オーダのこと。工場の中では複数の製造オーダが同時に流れている。その中には、共通の中間製品や共通の部品がある。MRPでは、これらの共通のものをまとめて処理する。例えば共通の中間製品をまとめて作る、共通の部品をまとめて発注する。
 
しかし製番管理では、中間製品や部品をまとめないで、すなわち製番を崩さないで処理・管理する。部品を発注するときに「どの製番のもの」ということが分かるように管理する。したがって例えば、同じ部品を別の製番で一日に二回発注するというようなことがありうる。このような非合理なこともありうる。
 
しかし製番管理は、製番ごとにきちんと情報を管理することができる。個別受注生産の場合やあるいは繰返し生産の場合でも、製品ごと顧客ごとにきちんとコストなどを把握したいときに用いられる。管理を重視した生産管理の方式であるということかできる。この特徴を押さえておきたい。
 
実際の生産管理パッケージでは、工場ごとにMRPと製番を使い分けたり、製品とかある部品は製番で管理して、しかし他の部品はMRPで回すといったことができるようになっている。
 
 
 
 
◇APS(Advanced Planning and Scheduling)
 
 
MRPは稼働能力と稼動状況を考慮しておらず、いつ生産できるかは、過去のデータからの類推である。
 
稼働能力と稼動状況を考慮すれば、実際にいつ生産できるかということが分かるはずである。これがAPSの考え方。
 
稼働能力を考慮しつつ、すべての生産計画の生産工程を順番に割り当てていく。例えばA設備はB製品のC工程を一時間に200個できる。今回は400個なので、この日のこの時間に割り付けて..というような具合である。これば稼働能力・稼動状況を考慮した生産計画が作成できる。
 
 
◇TOC(Thery of Contraints)
 
ダイヤモンド社の「The Goal」はTOCの考え方を説明した小説。TOCの出発点となる考え方は、「一連の生産工程、生産プロセスの生産能力は、その中の一番能力の低い工程の能力で決まる」という原則。一番生産能力の低い工程をボトルネック工程という。
 
TOCは、ボトルネック工程を先にスケジューリングしてボトルネック工程に空きができないようにする。他の作業を先にスケジューリングすると、その都合で、ボトルネック工程を割り付けられないことがありうる。これでは全体の生産効率が落ちる。これを防ぐ。
 
ボトルネック工程の前の工程に事故があって止まって、ボトルネック工程に仕掛品が届かないとボトルネック工程が止まって、全体の生産効率が落ちる。これを避けるために、ボトルネック工程の前の工程を少し余裕を持って終了させるようにスケジューリングする。別の表現をすれば、ボトルネック工程の前にあえて仕掛をおく。
 
TOCはAPSのスケジューリング方式を改良したものである。APSやTOCの考え方は納得できるものであるが、これらを適用できない生産プロセスが存在する。それはいわゆる一個流し系の生産プロセスである。APSやTOCは生産工程がスケジューリングの対象となるが、一個流し系では、リードタイム短縮のために、生産工程を連続して流すためである。注、MRPは生産工程単位ではなく、生産プロセス単位でスケジューリングする。
 
 
◇カンバン方式
 
こちらも日本独特のもの。英語でもカンバンで通用する。カンバンという品目や数量を欠いた札を現物に添付して生産や物流の指示をする。細かく言えばまた分かれるのだが、主に二種類のカンバンがある。
 
・引き取りカンバン
  部品を生産するサプライヤやサブラインから部品を調達するために使用するカンバン。
 
・生産指示カンバン(仕掛カンバン)
  生産ライン中を流して生産をコントロールするために使用するカンバン。
 
 
カンバンの動きは次のようになる。
 
1.メインのラインで、サブラインから納入されている部品を取り出す。最初の部品を取り出したときに、引き取りカンバンを外して所定の場所に置く。
 
2.引き取りカンバンは、定期的にサブラインに回収される。
 
3.引き取りカンバンを元に、サブラインからメインラインの部品が引き取られる。この時に、引き取られた部品についていた生産指示カンバンを外しておく。
 
引き取りカンバンは、このサイクルを繰り返す。
 
4.メインラインに引き取られた部品についていた生産指示カンバンが、ラインの最初に戻される。
 
5.生産指示カンバンにもとづいて、生産が行われる。
 
6.生産指示カンバンが、部品の生産ラインを流れて完成した製品とともに出荷場所に置かれる。
 
生産指示カンバンは、このサイクルを繰り返す。
 
カンバン方式が動作するためには、生産量が平準化されていなければならないという条件がある。そうでなければ部品調達に支障が出る。
 
カンバン方式の特徴としては、生産と調達の指示が順次伝わっていくので、中央集権的なシステム不要であり、このメカニズムを動かすだけならば事務処理部門さえも不要である。またメインの生産ラインに生産指示を出せば、後は自動的に動作する。
 
そしてトラブルがあっても自動的に調整が行われる。例えばメインラインのスピードが何らかの理由で落ちると、それに同期して下位のラインもスピードが落ちて作りすぎるということがない。
 
カンバン方式は、適用範囲は限られるけれども、このような優れた特徴を持っている。
 
 
◇生産管理システムの導入
 
今日では、工場の生産管理は生産管理システムを中心に回っている。したがって生産管理システムがどのようなものであるかは、非常に重要である。
 
生産管理システムは、自社開発するという選択肢と、生産管理パッケージを導入するという選択肢があるが、多くの企業においては、生産管理パッケージを導入するのが現実的である。自社開発は、一部の大企業に限られる。それは他のシステムとの連携が多い、独自の強みを実現したいということである。多くの企業では生産管理システムを自社開発して実用的なレベルにまで仕上げていくには、多くの困難と期間が必要である。
 
生産管理パッケージは種類が多く、業種や業務手順の違いで自社に合う/合わないがかなりはっきりしており、自社にあったものを選択することが重要である。また完全に自社に合うパッケージもないので、譲れる部分、譲れない部分をはっきりさせて、パッケージを決定する。譲れる部分は諦めるか、業務手順を変更したりする。
 
またパッケージを選択する過程で自社の業務手順を調査するので、問題点があれば、業務改善を同時に推進する。
 
パッケージを選択する場合に、販売実績は重要な要素である。
 
 
 
□ 効率的な生産を阻害する要因
 
 
◇工場の生産阻害要因
 
この問題を三つに分ける。
 
1.生産体制の問題
2.生産方式の問題
3.生産プロセス内の問題
 
生産体制とは、生産管理とか、工場全体のの問題である。
生産体制の問題
 
生産体制の問題をさらに三つに分ける。
 
1.経営環境に起因する問題
2.業務のやり方に起因する問題
3.生産管理に起因する問題
 
1.については、経営環境を変えることは基本的にはできないので、自社を変えて対応していくことになる。これらのうちのいくつかを挙げておく。
 
設備や治具のコスト。多品種化に伴い、設備や治具のコストが増大する。
 
生産プロセス切り替えのコスト。生産プロセスの切り替えが多くなり、このコストを下げる必要がある。
 
作業者訓練のコストと時間。
 
生産量の変動、納期・数量の変更による管理工数の増大、スケジューリングの困難さの増大。これらにより現場にムダが発生する。注、中小企業の生産管理の難しさの多くは、ここに起因する。
 
社内物流。倉庫・工場・協力工場間の物流。物流の頻度、スケジューリングが適切ではない。物流コストの面からも検討する必要がある。
 
ラインへの部品供給、製品の回収などに手間がかかる。
 
在庫の増大、欠品が発生する。在庫負担や生産遅延の問題が発生する。
 
スケジューリング精度の劣化。きちんとしたスケジューリングをしないと現場の無駄、生産の停滞が発生する。
 
 
◇ベルトコンベア生産の問題
 
 
ベルトコンベアは効率化の代名詞となっているが、今日では生産効率向上のため廃止されることも多い。
 
作業工程の時間の違いのロス。例えばA部品を取り付ける時間が10秒、B部品を取り付ける時間が50秒だとし、一人ずつ担当を割り当てると、A担当は毎回 40秒の空きが生じることになる。実際は複数の部品を担当したり、助け合いゾーンを設けたりして平均化するが、それでも解消するのは難しい。
 
比較的多数の作業者が一組を構成するのでチーム編成に柔軟性がない。例えば二組に分けたりできない。ある程度欠勤で出ると、作業ができない。
 
ラインの切り替えコストが大きい。生産品種を切り替えるとき、設備の設定、治工具の交換などを行うが、その間作業者が待機している。これがムダである。ラインが長いほど影響が大きい。
 
一列につながっているので、一箇所のトラブルが全体に影響を及ぼす。
 
全体としてベルトコンベア生産は、小ロットの生産に都合が悪い生産方式である。
工程別ロット生産の問題
 
ベルトコンベア生産やセル生産と並んで組み立て型では代表的な生産方式。一ロットを一つの工程がすべて終わって、次の工程に取り掛かる。生産工程ごとに見ると効率が良いが、欠点は、仕掛在庫が多くなる、リードタイムが長くなる。一個流し系では、工程間に時間的な重なりがあるので、トータルのリードタイムが短くなる。
 
現在では、工程別ロット生産はできるだけ行わないようになっている。しかし協力工場がある場合やバッチ工程がある場合は、工程別ロット生産にせざるを得ないことがある。
 
 
 
◇生産プロセス内の阻害要因
 
 
これは、個々の生産プロセスに固有の要因が大きい。ありがちな問題をピックアップする。
 
工程間の物と人の移動がムダである。
 
工程の作業時間が異なる。ベルトコンベア生産で述べたものと同じ。
 
機械の動作の手待ち。機械の動作が完了するのを待っている時間がムダ。
 
部品を取り上げる動作、治工具をとりあげる動作がムダ。一歩踏み出したり、振り向いたり、持ち上げたりする動作がムダ。部品や治工具は定位置で取り上げられるようにする。
 
部品を選択する時間。複数の部品を取り付けるとき、一瞬の判断が必要である。これがムダ。
 
マニュアル参照の時間がムダである。仕様確認の時間がムダである。
 
部品や仕掛品を固定する時間がムダである。
 
 
◇七つのムダ
 
 
有名な七つのムダとは次のものを言う。
 
作りすぎのムダ
在庫のムダ
手待ちのムダ
運搬のムダ
加工そのもののムダ
動作のムダ
不良を作る・手直しのムダ
 
ここで「加工そのもののムダ」とは「付加価値を生まない加工はムダである」の意味である。
 
注、「手待ちのムダ」を「手持ちのムダ」と間違えている書籍やサイトも多いので注意。
 
 
 
□ 生産体制や生産方式の改善
 
 
生産体制や生産方式の改善は次のように行う。以下順番に展開する
 
・生産体制の改善
  生産プロセスを取り巻く工場の全体的な改善
 
・生産方式の改善
 ・モジュール化
 ・混流生産
 ・セル生産
 
・生産プロセス内の改善(省略)
 
◇生産体制の改善
 
生産管理システムのレベルアップ。スケジューリングについて。現場のムダのないスケジューリング、平準化されたスケジューリング、納品日程を考慮したスケジューリング、段取りの少ないスケジューリングを立てる。これらは矛盾することがあるので、実情に応じた選択をする必要がある。さらに確実な無駄のない部品調達。
 
レイアウトの変更、間締め。生産プロセスがスムーズに流れるように工場内レイアウトを変更したり、間を詰める。簡単なようだが、複数の製品を対象にすると必ずしも簡単ではない。
 
倉庫の廃止、JIT(カンバン方式)。部品入荷→倉庫に入れる、生産指示→倉庫から出庫する、製品完成→倉庫に入れる、出荷指示→倉庫から出庫する。これらは倉庫の出し入れがムダである。部品は生産現場の近くに置く、製品は出来上がった場所から出荷する、これがムダがない。
 
究極はトヨタのJIT(カンバン方式)となる。これは部品をちょうど必要なタイミングで、必要な場所に、必要な数量納入してもらう。JIT(カンバン方式)を実現するには、高度なシステムや体制が必要である。そもそも生産が平準化されていないと不可能。
 
JIT(カンバン方式)までは実現できなくても、倉庫の廃止は行われている。そのためには、製品の出荷予定を考慮して、その順番に生産予定を立てて、それを考慮して部品入荷・発注をスケジューリングすることが必要。そうして製品や部品が現場に溢れないようにする必要がある。
 
梱包の簡素化。部品がダンボールに入って入荷するのは、取り出すのにムダが発生する。部品はできるだけハダカの状態で納入してもらう。
 
工場・協力工場の分担変更で、社内物流を減少させる。ミルクランの実施も検討する。
 
インソーシング。この場合のインソーシングは、協力工場の工程を自社に取り込むこと。コスト、物流、スケジューリングや管理の面でメリットがある。世間ではアウトソーシングが言われているが、製造業では、社内の生産プロセスを合理化し、浮いたりソースを活かして協力工場の工程を取り込むことが行われる。
 
ヨコ持ちからタテ持ちへ変える。機械関係の工場で多台持ちすなわちヨコ持ちから、多工程もちすなわちタテ持ちへ変えることが行われている。仕掛が減少し、リードタイムが短くなる。
 
ロットサイズを小さくする。ロットサイズが大きければ、生産効率が良いが、仕掛が多くなる、ロットサイズが小さければ、生産効率は悪いが、仕掛は少なくなるという関係がある。現在は、できるだけロットサイズを小さくする方向で努力が続けられている。
 
作業者の多能化。多品種に対応するためには、作業者の多能化は必須である。スケジューリングが柔軟にできる。
 
段取りの短縮。生産品種切り替え時間の短縮。段取り作業は、外段取り部分と内段取り部分に分けられるが、できるだけ外段取り部分が多くなるように改善する。
 
生産の平準化。ある程度以上の生産量がある場合、まとめて生産するよりも、日々平準化して生産するほうが、部品調達がうまくいく。特注部品がある場合は、平準化されていることが必須条件である。
 
現場への部品供給の改善。作業者が部品を取りにいったり、製品を納めたりする方式と、専任担当者が工場内を回って行う方法がある。この専任担当者は工場内を回っているのでミズスマシという。ミズスマシを置いたほうが良いかどうかは、工場の状況による。またセル生産のセルをベルトコンベアに接して設置して、部品供給や製品回収を行う方法もある。
 
 
 
 
◇モジュール化
 
 
モジュール化とは、部品を一つずつ本体に取り付けるのではなく、あるまとまりを持ったものをモジュールすなわち中間製品として組み立てて、モジュールを本体に取り付けていく組み立て方式に変更することをいう。お分かりのようにモジュール化を実現するためには、設計からやり直す必要がある。
 
生産プロセスが長い場合には、メインの生産ラインが短くなるので有効である。がしかし、モジュールの組立てまで含めて効率化できるのかと考えると話は単純ではない。雑誌などでは、セル生産の話などと比較してモジュール化の記事は比較的少ない。記事を読んでみてもモジュール化の話は若干インパクトにかけるというのが実際の印象である。
 
一方、汎用的なモジュールの組み合わせで、いろいろな製品ができる場合は、モジュールの見込み生産やさらに市場からの調達ができるので、リードタイム短縮や製品在庫の削減に有効である。
 
単に中間製品を作るだけならば、今までも行われてきたことである。複数製品に共通のモジュールを設計するということがポイントではないだろうか。
 
モジュール化の成功事例は、パソコンである。
 
 
 
◇混流生産
 
混流生産生産とは、一つの生産ライン・生産プロセスで複数の似たような製品を混ぜて流す方法。製品が似ていることが条件である。
 
メリットは、生産品種切り替えコストが不要、生産数量が少ないことによるコストアップを防止できる、複数の製品を同時に生産するのでトータルのリードタイムを短縮できるということがある。
 
ベルトコンベア生産、工程別ロット生産でも混流生産が行われる。注、セル生産では混流生産は行われないようである。その理由はセル生産は小ロットでも生産効率が落ちないので、混流生産にする理由が希薄である、セル生産は特に外部に支援システムが必要ではなく、導入の難易度が低いが、混流生産は、生産管理システムから変更する必要があり、難易度が高いなどの理由が考えられる。
 
混流生産の問題点。生産する製品の仕様と順番をきちんと管理するシステムが必要であり、この難易度が高い。生産管理システムも対応している必要がある。部品の搬入が複雑になる。作業者の熟練が必要。仕様を確認する手間が必要。これは画面にワンタッチや自動で表示する方法が取られる。ミスが発生する可能性がある。
 
混流生産は、効果が大きいが、混流生産をきちんと制御するのは、難しい技術である。これを支えるコンピュータシステムや作業者の熟練が必要である。
 
 
◇セル生産
 
 
現在では、セル生産が注目を集めている。セル生産とは、小さなU字型やL字型のエリアで、小人数(五人くらいまで)で生産する方式である。このエリアが細胞のように見えるので、セルという名称がついていると思われる。
 
まずセル生産の特徴。
 
1.U字型やL字型のエリアに生産設備を配置し、内側で作業すると作業動線が短くなる。最後の工程から最初の工程にも簡単に戻ることができる。
 
2.はっきりとした作業分担を持たない。状況を見て声を掛け合って、臨機応変に分担を変更していく。注、例外あり。
 
3.セル生産の作業者は多能工である。
 
4.内部的には一個流しで作業をする。
 
5.自主検査。外観検査においては、明示的に検査工程がなく、自分で検査する。
 
6.立ち作業である。現在の工場は、セル生産に限らず多くは立ち作業となっている。
 
7.単機能の設備を組み合わせてセルを構成する。
 
8.作業者の意識向上、レベルアップが前提である。
 
セル生産のメリットを挙げる。
 
1.作業効率が上がる。一般に30から50パーセント上がるといわれている。しかしもともとの水準が問題である。
 
2.外部からの細かい指示が不要。セル内で作業者が自主判断をする。
 
3.組み立てミスなどの不良が速く分かる。これは一個流しの特徴。
 
4.人数が可変。一人でも五人でも可能である。注、例外あり。
 
5.生産量の調整が簡単。調整は、セル数の調整、セル内人数の調整で行う。
 
6.小ロットで生産効率が落ちない。
 
特に最後の三個の特徴は特筆すべきである。
 
セル生産デメリット。セル生産は効果が大きいが、デメリットがあり、また適否もある。
 
1.作業者に対してプレッシャーとなる。作業範囲が広く、また自主管理なので、プレッシャーとなることがある。
 
2.多能工化が必要なので、すぐには実現できない。
 
3.自己満足に陥ることがある。作業スピードや品質。したがって外部からのチェックやチームローテーションが必要である。
 
4.小さな製品に適している。セル生産は万能であるというようなことも言う人がいるが、一般的には小さな製品に適している。注、このような主張はセル生産の定義を広げているだけ。
 
5.バッチ処理があるものは不適。バッチ処理とは、炉を使うものや塗装処理など時間がかかるもの。
 
6.高価な設備や大きな設備が必要な工程があるもの。
 
7.協力工場の工程があるもの。
 
全体としては、セル生産は有望であり、多くの向上で取り入れられている。また中小企業に取り組みやすい生産方式である。
 
 
 
□ 改善の推進
 
 
◇組立型製造業の強みの例
 
 
先に組立型製造業の強みをどこに求めるかといった。これは個々の企業で異なってくるので一般論で述べることはできないが、強みを発揮しているパターンを挙げてみた。
 
部品数が非常に多い製品に対して生産管理技術・生産体制を確立する。例は自動車。
 
組立てを調整する技術が高度であり、その技術を磨く。精密機械や工作機械。こちらは部品の要素も大きいかもしれない。言葉を変えて言えば、核となる部品があって、その部品の特性を活かすような設計・生産技術であるともいえる。
 
短納期の実現。低コストであっても海外の生産ではリードタイムがかかる。試作品や受注品が中心の場合には、納期が決め手となることがある。顧客が要求するあるいはそれ以上の短納期を実現する。納期で他社を引き離すことができれば、高価格で受注できたり、確実に受注できたりする。短納期を実現するためには、生産工程をできるだけ自社で持つことが必要である。
 
顧客の特注仕様に柔軟に対応する。これは試作品や高額品あるいは試験装置など。特注ではないが、仕様の数がやたらと多い製品の品揃えを図るというパターンも存在する。
 
消費者の心をひきつける設計やデザイン。これは消費財であるが、別の言葉を使えばブランドの確立ということになる。
 
サービスやメインテナンスの強化を売りにする。
 
以上、分かる範囲で上げてみたが、他にもありうるだろう。
 
 
◇組立型製造業の改善の推進
 
一般の人が、製造業の生産性向上は,機械化・自動化によって達成されてきたと思うのは無理からぬものがある。しかし組立て型製造業においては、高価高機能の設備を使わず、単機能汎用的な設備を使い、人間の柔軟性を活用する形で生産性を上げてきた。そのひとつの成果がセル生産である。
 
組立型製造業といっても、さらにいろいろなタイプがある。日用品を生産するメーカと工作機械メーカは違うし、自動車メーカと家電メーカを同一に論じることはできない。今まで述べてきたことは共通ではあっても、さらに細かく見ていくと、生産管理・生産方式の改善の方向性が違ってくる。
 
組立型製造業を規定する要因には、次のようなものがある。企業全体としては、製品数や部品数、協力工場の数など。また主要製品については、オリジナル製品か顧客設計の製品か、部品数、特注部品の割合、需要変動が大きいかどうか、製品寿命の長さ、協力工場を使っているかなどが要因として考えられる。詳しくは別途解説している。
 
これらをパターン分けて展開すると、さらに大変である。
 
例として自動車メーカ。受注生産だが、需要がほぼ平準化しているというありがたい特性がある。一方で部品数、特注部品が多い、という厄介な問題がある。このような企業では、全体を緻密にコントロールする戦略・体制が必要である。トヨタを見れば分かる。
 
次の例は、どこであるとは規定しにくいが、電機関係の下請けなどに多い。顧客設計の製品を受注で生産しているので見込みで生産できない。需要変動が大きい。短納期である。このような状況は生産管理的には非常に難しい状況を引き起こす。一言で言えば、臨機応変に対応する能力が必要である。
 
実際の製造業の改善は、このようなタイプを見て、それぞれに改善していく必要がある。
 
生産管理と生産方式・生産現場の改善は、改善の両輪であり、バランスを取って推進する必要がある。
 
バランスを取るとは、中間を採用することではなく、状況に応じて判断するということである。生産管理がネックになっているかもしれないし、生産体制の改善が必要かもしれない。全部門・全員が一致協力して、改善を推進する。そのような体制ができるかどうかは、経営トップにかかっている。