■ JIT(カンバン方式)によるコスト削減
 
 
JITとはJust in Timeの略。成功した言葉の通例として、言葉の意味が拡大し曖昧になっているが、本来の意味は、ちょうど必要なタイミングで生産現場に物を供給すること。JITを具体的に実現する手段としてはカンバン方式が有名である。トヨタ生産方式の根本を構成するものである。
 
組み立て系の工場を考えてみよう。製品を生産するためには、部品を発注したり、生産プロセスの一部の工程を協力工場に外注したりする。部品メーカから部品や協力工場から仕掛品が納入される。納入された部品や仕掛品は倉庫に保管される。
 
工場ではいろいろな製品を生産している。当の製品の順番が回ってきたら、必要な部品や仕掛品を倉庫から運び出して製品を組み立てる。
 
これらの手順は当たり前に見える。
 
これに疑問を持って改善したトヨタは偉大である。どこに改善すべき点があるか。1.部品や仕掛品が、しばらくの間倉庫に積まれる。その間在庫負担がかかる。2.倉庫から部品・仕掛品を運び出す作業が無駄である。3.これらに関係する設備や人件費が無駄である。
 
どのように改善するか。すでによく知られているように、「製品を生産する現場にちょうど生産を行うタイミングで部品や仕掛品を納入する」。
 
言葉で言えば簡単だが、工場のことを少しばかり研究したものにとっては、非常に高度なシステムであることが分かる。これをトヨタはカンバン方式という仕組みで実現した。カイゼンやカンバンという言葉は、今日では英語でも通用する言葉となっている。
 
部品といっても、即納できるような部品ばかりではない。納期がかかるものや特注部品だってある。協力工場に依頼するものは、協力工場の都合もあるので、頼めばすぐにやってくれるというものでもない。そしてちょうどよいタイミングで納入することということがいかに困難か。
 
生産計画が予めかなりのレベルまで展開されていなければならない。またそれ以前に生産が平準化されていなければ、部品調達に支障をきたし、中間製品の生産ができない。そして自動車産業のように裾野が広い場合には、上から下まで数階層におよぶすべての企業が集団体操のように同期を取ってきちんと動くことが必要である。注、同じ組み立て系の工場でも、このような仕組みではダメな工場もあることは認識していただきたい。
 
この仕組みは「後工程が前工程を制御する」という面白い仕組みになっている。カンバンを渡して情報を伝達する。納入の指示はカンバンで行うが、前工程には生産リードタイムが必要なので、平準化された事前の内示発注が必要となっている。また部品階層が複数あるので、先の階層へも事前の内示発注が必要である。何が面白いかというと、全体が同期を取って動作するにも拘らず、原理的には中央の司令部というものが要らない。注、正確に言えば、階層を下る展開と、前に戻る展開の二つが組み合わさっているのだが、簡単に言っている。
 
さて、このカンバン方式の仕組みの弱点はどこか。在庫を持たずに全体が同期をとって動作しているので、一部にトラブルがあると、後工程・全体に影響が出やすい。
 
事実、アイシン精機の火災(1997/02/01)、名古屋の水害(2000/09/11,12)、新日鉄の事故(2003/09/03)などがあった。ブリジストンの火災(2003/09/08)もあった。(この時は他にもなぜか工場の事故があった)。私は当事者ではないので事情は分からないが、関係者の苦労は大変なものだったろう。注、これらはトヨタ系列への影響が主である。
 
アイシン精機の火災は操業停止を含む数日間の混乱をもたらした。名古屋の水害のときは、当時関係者の方が発行されていたマガジンがあって、工場が浸水した中で操業したという生々しい記述があった。一時間に30ミリといえばかなりの雨だ。このときは80ミリという恐ろしい大雨である。(注、ところによっては100ミリを越えていたようだ。さらに蛇足、長崎の1982/07の雨は、一番多いところで177ミリとのこと。新日鉄の事故は、残業取り止めで7000台の生産が遅れたとのこと。
 
2007/07。新潟県中越沖地震でピストンリングメーカーのリケンの柏崎工場が被災し、なんと全自動車メーカーの操業が一時停止する事態となった。
 
このような事態はありうるのだが、これでカンバン方式を否定することはできないだろうと考える。