■ 税理士の営業 - 3
 
 
 
【SFA(Sales Force Automation)】
 
前回は科学的営業法と税理士の営業の基本的なことについて述べた。今回は税理士のパソコン活用・SFAについて。営業活動のフェーズで言えば商談・契約の話が主となる。
 
1.SFAとは
 
営業活動は、社内の他の部門、メーカであれば生産部門やマーケティング部門などと連携して動く。過去の商品ごと・顧客ごとの販売実績なども把握する必要がある。これらを考慮し顧客情報や商談の状況を判断して営業活動を展開する。
 
営業活動を支援する情報システムをSFA(Sales Force Automation)という。するとSFAは生産管理や販売管理などのシステムと連携し、商談情報などを管理して、営業判断を助けて推進するものとなる。SFAで扱うデータには、次のようなものがある。
 
・顧客情報
・売上データ
・商談プロセス情報
・営業パーソン活動情報
 
顧客情報。企業が対象であれば、所在地、規模、担当者などの項目がある。SFAでは既存顧客だけではなく見込み客の情報も扱う。
 
売上データを支店ごとの売上実績など自社の視点や購入履歴など顧客の視点から分析して、営業活動に役立てる。
 
商談プロセス情報。個々の商談の進行状況を表す情報。SFAとしては、この情報が最も根本的なものである。そしてその内容は、商品や営業形態によって異なってくる。共通的な項目を挙げる。
 
・商談の展開計画など、自社の考える商談の予定・展望。
・コンタクト履歴。電話や郵便、電子メールや訪問の時系列な記録。
・面談内容、顧客の反応、商談規模、時期、競合情報など。
・上司などの商談に対するコメント。
・提出ドキュメント。
 
営業パーソンの活動記録。内容的には商談プロセス情報と同じものだが、営業パーソンを切り口にして見たもの。個々の担当商談が、どのような状況なのか、どのようなスケジュールで進行しているかといったことである。
 
営業パーソンは、過去の情報を見ながらどのような展開をするかを考え、訪問計画を立てて訪問し、結果を日報に入力する。商談履歴を参照して、次の手を考える。
 
マネージャは、日報に対してコメントを入力してアドバイスをする。商談の状況や営業パーソンの動きを見て、全体的な判断を行い計画との整合性をとり、営業パーソンを評価・指導する。
 
情報が蓄積されてくれば、どのような顧客が有望なのか、訪問回数と売上の関係はどうなのか、また価格と売上の関係は、どのようなセールストークや展開が良いのかが見えてくる。そうすれば過去の類似の商談を参考にして、有効に商談を展開することができる。
 
2.SFAの現実解
 
市販されているSFAのパッケージソフトがある。このようなパッケージは高機能かつ強力であるが、百人とかの大規模な営業組織を前提にしている、商品として販売しているので、(ありがちなことだが)機能がありすぎて使いこなせない、特定の企業が前提ではないので自社に合わないこともある。したがって大企業でも社内のシステムとの相性を考え、自社に合ったSFAを実現するために、自前で構築するという選択肢もある。
 
中小企業では、既存の情報システムを改良してSFA的な機能を付加したり、グループウェア(GW)を活用するということも現実的な選択肢である。最近のGWは、安価で使い勝手がよくSFA的なことにも留意している。営業に特化した機能ではなくても、スケジュール、掲示板など一通りの機能は揃っている。
 
SFAの範囲ではないが、社内書類、見積書や提案書の作成効率化とレベルアップ。交通費や経費の精算、その他の事務処理の効率化なども実現したい。
 
モバイル。外回りにおいて、社内システムのデータを利用できれば、顧客に対するプレゼンテーション、上司への報告など便利かつ有効。GWではモバイル機能を提供しているものの、本格的に利用しようとすると業務処理との連携が必要で個別開発となる。
 
【税理士でのパソコン活用】
 
本連載は営業がテーマだが所内の事務作業も含めて考える。私が関係してきた範囲では、中小企業といえども営業部があって、マネージャ、営業パーソン、アシスタントがいて、最低でも数人の組織となっている。税理士では、各人が営業を兼任しているか、ごく少数の営業担当者がいるというのが多数だろう。税理士のSFA、パソコン活用の特性を挙げる。
 
・他のシステムと依存関係が少ない。卸であれば販売管理システムがあり、営業活動には、これらのデータを利用する。税理士では、所内の業務システムと営業との関係が希薄である。
・個人レベルから小集団での活用。組織的なSFAというよりも、もっと小回りを利かせた実際的な活動が必要となる。
・パソコンを使用する作業が多く、情報システムを利用するための障害が少ない。
 
このような事情を考えれば、税理士では、情報共有・書類の作成の効率化あるいは個人の作業効率の向上が重要であろう。
 
所内の情報共有。営業に限らず情報共有というものが重要。数人であっても相互に連携を取ってスムーズに進めていくには、各種の情報を共有し、臨機応変に対応していかなければならない。共有する情報は、ToDoリスト、各種の報告・連絡、各人のスケジュール、営業活動の状況、顧客の状況など。これらは前述のGWの範囲である。
 
GWでも高いという人は、インターネット上のメーリングリスト(ML)やスケジュール、カレンダやファイルの共有などの各種サービスを使うという手もある。仕事に使うには抵抗はあるかもしれないが、多くは無料であることが大きな魅力。直行・直帰の場合でも家から使用できるという利点がある。
 
また少しの技術力があれば情報共有の無料のシステムを利用できる。例えばZope、Xoops、Wiki。ここでは解説しないがGWと同等の機能を簡単に構築することができる。サポートがなく自分でインストール・管理・運用しなければならないが、それほど難しくはない。
 
やってみると分かるが、電子メールのみでの情報共有はかえって混乱する。単なる連絡ならば電子メールでよいが、情報を蓄積して日々の業務で参照するような使い方は適さない。複数の人の応答が入り混じって何がなんだか分からなくなる。
 
顧客と電子メールをやり取りする場合、関係者が三人以上であればMLを介して連絡すると漏れがなく関係者に確実に通知することができ、過去のログも参照できるので記録が残る。担当者同士しか事情が分からないということがない。
 
書類の作成。今日では書類はオフィスソフトで作成されている。所内の書類、顧客に関係する書類は、個人管理ではなく、きちんと体制を決めて作成管理していく。各種のフォーマットや文書を折に触れて整備し、作成効率と文書の質を高めていく。
 
マイクロソフトオフィスを使い続けるのにバージョンアップでコストがかかるということであれば、StarOffice、OpenOfficeなどの安価・無料のオフィスソフトがある。マイクロソフトオフィスと互換性があり、顧客と書類を交換することもできる。
 
【税理士のSFA】
 
税理士の営業の特性を踏まえると、そのSFAは、そんなに複雑なものではない。管理する情報は次のようなものだろう。
 
・顧客のリスト
・顧客とのコンタクト・商談の履歴・内容
・訪問スケジュールの管理
 
専用システムよりも、むしろ情報共有を発展させて、その結果SFAとして展開していく方が他の業務との整合性は取りやすい。
 
GWであれば用途別に掲示板を作成して順次書き込んでいく。各自は掲示板を必要に応じて参照して仕事を進めていく。掲示板は商談履歴のように時系列な情報と知識・マニュアル・一般情報などに分けられる。後者は時に内容を整理して分かりやすくしておくことが必要。
 
ほとんど個人ベースの営業活動であれば、自分のパソコンのオフィスソフトなどで賄うということになる。ここでも、いろいろ各種のソフトを使い分けるよりも、専用の機能はなくても自分がよく知っている・使っているソフトを使いまわすという方が現実的。インターネット上には、EXCELシートなど各種の便利なものが配布されているので利用されたい。
 
ちなみに私個人の日々の情報管理はメールソフトが中心。ToDoリストもスケジュールもメモも管理している。電子メールの送受信操作との連携が取りやすいし、ジャンルごとに分類もできる。個人ベースの時は、メールソフトは非常に有効な管理ツールとなる。
 
商談・契約のフェーズでは、顧客への訪問の他に、電子メールやDMでのニュースレター(NL)の配信が考えられる。せっかくの見込み客なので、積極的にアタックしたいというのは人情。一方顧客にしてみれば、一度問い合わせたら、しつこく訪問してくるというのは嫌なもの。様子を見ようとしている顧客は、まだ考える時間が欲しいと思う。
 
そのような顧客は、NLを流しておくという状態にしておく。コストもかからない。新規開業の企業でなければ、すでに付き合っている税理士があるので、変えるにしても時間がかかる。NLでつないでおいて適当な間隔で訪問する。今期は前の事務所、次期より契約していただくというようなことを考える。電子メールは、認知・見込み客把握フェーズのツールだが、このフェーズでも顧客の関心を引き止めておくために使用できる。ただし売り込み色は薄める。
 
訪問対象の顧客は、コンタクト履歴を参照して間隔を空けすぎず詰めすぎずに訪問する。営業は移動時間が長い仕事なので、近くの他の顧客も同時に訪問すると合理的。複数の顧客のスケジュールを睨んで、主導権を取ってスケジューリングしたい。
 
過去の訪問時に話したことを記録しておいて、ちぐはぐな話をしないようにする。税金の知識などの(薄い)パンフを用意して販促ツールとする。
 
情報システムを定着させて使いこなすにはどうするか。SFAのように、なくてもそれなりにやっていけるシステムでは、定着のための努力が必要。よく言われているのは、使わなければ仕事ができないような体制にする。税理士の作業は、パソコン活用と相性が良い。ポイントは所長や管理職が積極的に使うことにあると思われる。パソコン活用やSFAの意義を理解して積極的に進めていただきたい。