「流通の中抜き」が言われて久しい。これは小売業者がメーカや生産者と卸売業者を介さずに、直接取引きを行うと言うものだ。W/R比率と言う重要な統計数字がある。卸売業者の販売額を小売業者の販売額で割ったもの。W/R比率が2であれば、平均してメーカから出荷された製品は2社の卸を経て小売に届けられる。(本当は各社の利益分があるので、2社よりも多い)。この比率が大きいほど、流通経路が長いことになる。また最近はW/R比率が低下していると言われている。ちょっと古い数字しか見つからなかったので申し訳ないが、中小企業庁の統計では82年で2.9、97年で2.3。確かに低下している。ついでだがW/R比率は都市部で高く、地方では低くなっている。これは商品が都市部から地方へ流れていくということを数字で示している。

日本では欧米諸国に比較して、W/R比率が大きいと言われている。すなわち日本では流通が合理化されておらず、消費者は高いものを買わされているということになる。(注1)。このような言葉には、「卸売業というものは、メーカと小売の間に入って利益を掠め取っているだけで、価値のある仕事をしているものではない」といった暗黙の批判がある。私も消費者としては、高いものを買わされるのはごめんだが、ここでは「どちらが正しいか」というようなことではなく、卸売業の役割を再確認してみよう。

もし卸というものがなかったと仮定してみよう。メーカは自社の製品を販売しているすべての小売業者の店舗にトラックを自ら仕立てて届ける。農産物は各生産地より全国の消費地に個別に届けられる。個人の場合に喩えれば郵便や宅配便を使わずに、自分で手紙や小包を届けることを想像して欲しい。大きなコストと大変な手間がかかる。この意味での流通コストの削減は卸売業の基本機能と考える。

もう一つの機能として「情報の流通」。メーカや生産者が全国の小売店をどのようにして知って製品を売り込むのか。小売店が、全国には、どのようなメーカがあってどのような製品を持っているのかをどのようにして知るのか。零細メーカの多い業界ならば、これはなかなか大変。

最後に交渉の手間。小売店が一つ一つの商品について、メーカと交渉する手間を考えると卸は必須であるように思う。例えばスーパーや文具店など極めて商品数が多い小売業が、個別に交渉するとなると気が遠くなる。

卸売業と言うのは、確かに近代化が遅れている業界であり、また流通全体の合理化も必要だろうし、現実に進行している。一般の人には目の届きにくい業界ではあるが、また卸売業には、扱う商品や取引形態に応じて非常に多くの業態があり、経済構造の変化に対応して業態を改変してきたと言う経緯がある。特に小規模卸売業は、ニッチな商品、取引形態に対応し、小売の要求に細かく応じて生き延びてきた。変革を迫られていることは間違いないが、今後も卸売業の存在意義は大きいものと考える。

注1
W/R比率が欧米に比較して大きい理由の一つは、日本では小売の寡占化が進んでいないという理由があると思われる。確かに日本でも小規模・零細小売業は転廃業が相次いでいるが、それでも欧米に比較すれば、寡占化が進んでいない。大手の小売業は、直接メーカと取引する量が多いためにW/R比率を低くすることになる。また欧米(特にアメリカ)では、自社物流の割合が多い。これもW/R比率に影響する。