説教強盗というのをご存知だろうか。それは大正の終りから昭和の初めにかけて、東京の新宿、中野、練馬辺りに出没した強盗である。

彼は強盗に入り、「犬を飼っておけ」、「戸締りはキチンとせよ」などと防犯上の注意をするのである。もちろん防犯の注意をするために押し入るのではなく、しっかりと金品はもらっていく。

一見滑稽であるが、しかしこれがさらに被害者の恐怖心を倍加させるのである。警察の懸命の捜査にも拘らず、捜査の網をかいくぐり、犯行を重ね続けた。

彼の犯行は数十件に及び、大げさに言えば東京中を恐怖のドン底に陥れた。東京市議会(当時は東京市)は彼を逮捕するようにとの特別決議を行なった。そして国会でも、そのような決議が行なわれようとした。(実際には行なわれなかった)。

「警察の懸命の捜査」と言ったが、「サンカと説教強盗」では、実は警察は、途中から彼の身元を掴んでいたのではないか、と書いてる。というのは捜査の失態によって彼を取り逃がしたことがあり、その失態を隠すために、しばらく泳がせていたらしいと言っている。

本書では、彼はサンカではなかったのか、という説を提出している。その真偽はともかく、気になるのは、説教強盗を執念深く追いかけた東京日々新聞(毎日新聞の前身)の三上寛との関係。

サンカとは知られざる日本のジブシーであるが、三上は退職後、サンカの研究者となって、三角寛のペンネームで、いくつも本や論文を書いた。

サンカについては別途記述するかもしれない。