数ヶ月前、奇妙な疑問に思い当たった。その疑問とは「豆腐と納豆の名前が、もしかすると入れ替わっているのではないか」。

納豆は納豆菌によって豆が発酵すなわち腐ったものであるから、まさに豆腐ではないか。豆腐は箱の形に豆が納まっているものではないのか。すなわち納豆である。

いったん気になりだすと頭から離れない。数ヶ月間これで悩んでいる。夜も眠ることができないし、仕事も手につかない。そこで調べてみた。いろいろなことが分かった。

まず豆腐。豆腐は中国から来たものである。日本へは奈良時代に伝来したが、庶民に広まったのは室町時代以降とのこと。江戸時代以降との記述もあったが、このくらいの誤差はあるだろう。木綿漉し、絹漉しの他に、焼き豆腐、揚げ豆腐、ガンモドキなどのバラエティがあるのは周知の通り。大豆以外を原料にしたゴマ豆腐、落花生豆腐、卵豆腐などもご存知だろう。

製法はごく簡単に言えば、すり潰した大豆を茹でて蛋白質を液中に取り出し、できた豆乳を凝固剤を混ぜて型に入れて冷やして固める。凝固剤(にがり)には硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、塩化カルシウム(塩)など、カルシウム塩が用いられる。しかし良質の豆腐をいつも同じように作るには職人芸的な技術が必要だ。たかが豆腐といっても軽んじてはいけない。

木綿漉しは底に穴の開いた型に入れて固めるときに木綿で濾すのであるが、絹漉しは、実は濾すのではなく、豆乳を穴の開いていない型で、そのまま固めるのだそうだ。これを知ったのは、今回の調査の最初の成果。絹漉し豆腐に布目がないのはそのせいであった。絹漉しと同じような舌触りであるが、直接容器に入れて固める袋豆腐もある。スーパーで見るのはこちらの方が多いか。

次に納豆。納豆には塩辛納豆と糸引き納豆がある(甘納豆もお忘れなく)。塩辛納豆は中国伝来とのことだが、糸引き納豆は日本固有。普通、納豆といえば糸引き納豆を言う。発祥の地は室町時代以前の東北地方のようだ。有名なのは水戸、全国の40パーセントのシェア。

製法は水に浸した大豆を蒸した後、別に培養した納豆菌を混ぜて、40度程度の醗酵室に入れるものである。醗酵室に入れる時に容器に包む。もともと納豆の容器に藁を使ったのは、藁に中には野生の納豆菌が棲んでいるため。

明治38年、東京農科大学の沢村は納豆菌を発見し「バチルス・ナットウ・サワムラ」(私はこの素晴らしいネーミングに感激する)と命名。以降の納豆の製造技術の進歩は、純粋培養の納豆菌を使ったことと、藁よりもより衛生的な容器と温度湿度をきちんと調整できる発酵装置が使われるようになったことにある。

ご覧のように、いろいろな発見があった。

しかしである。最初の疑問はついに解き明かすことができなかった。今日も寝れそうにはない。ノイローゼになりそうだ。明日あたり病院に行ってみることにしよう。