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南の島の海辺の村の

ガジュマルの木の下に

小さなお店がありました。

 

 

 

お店の開店時間は、

毎日、限定2時間。

 

 

島の言葉で

 

 

「アコークロー」

(日本語で「黄昏時」、

万葉語で「かたわれどき」、

英語でマジックアワー)

 

 

の時間だけに開店する

焚き火BARです。

 

 

 

パチパチパチッ

パチパチパチッ

 

 

店の主の島ネコが
よく燃えるアダンの葉っぱを
くべながら、
焚き火の準備ができてきました。

 

店主の島ネコは、

アコークローの時間だけ、

人間の言葉がしゃべれるのです。

 

 

コンコンコン♪

 

 

今夜もお客さんがやってきましたよ。

 

 

お話に耳を傾けてみましょうか。

 

 

 

 

 

「こんばんは。

 友人から、ここの魔法を聞いてきました。

 お邪魔しても大丈夫ですか?」

 

 

 

ビーチにそぐわない

黒いパンツスーツで入ってきたのは、

かすみ、40代、女性、営業職。

 

 

 

元大手航空会社勤務、

CAの訓練でしみついたからか、

バッチリ口角が上がった、

完璧な笑顔。

 

 

 

背中がすっと伸び、

動きも、言葉遣いも、

文句の付けどころのない、

「100点満点」ともいえる

立ち居振る舞い。

 

 

 

なのに、

 

 

 

 

どこか、

 

 

 

 

寂しさが

 

 

 

 

にじみ出ている。

 

 

 

 

目の奥の奥が

 

 

 

 

「助けてーーー!」と

 

 

 

 

無言のSOSを出している。

 

 

 

 

 

島ネコは、まっすぐに

カスミの目を見つめ、

笑顔で答えた。

 

 

 

「はい、いらっしゃい。

 どうぞ、そちらに座って」

 

 

 

と、焚き火の前の

椅子を促した。

 

 

「今日は、どうしましたか?」

 

 

 

カスミは、

島ネコに心の奥を

見透かしているかのような気持ちになり、

なぜだか、突然、

目頭が熱くなり、

涙がこぼれ落ちてきた。

 

 

 

 

「私、分からないんです。 

 なにに困っているのかさえ、

 分からない・・・。

 

 でも、苦しいんです。」

 

 

 

どんどん、

心の奥に奥にしまって、

今までがっちりした箱にしまっていた

感情が溢れてくる。

 

 

 

「仕事もあって、

 結婚もしていて。

 子どもはいないけど、

 こんなにもう幸せで、

 これ以上求めるなんて、贅沢だって。

 分かっているんですけど、

 でも、なんだか、最近胸の奥がずっと苦しくて」

 

 

今にも泣きそうなカスミに、

島ネコは、

まっすぐに問いかけた。

 

 

 

「本当は、今、

 何を望んでいるんですか?」

 

 

 

「もっと、成長したいという想いがあります。

 でも、それは贅沢なんじゃないか。って。

 私より大変で苦しんでいる人がいるのに、

 こんな恵まれた私がこれ以上、望むなんて、

 バチが当たるんじゃないかって思うんです」

 

 

 

 

カスミは一気に

心の奥の澱みを吐露した。

 

 

 

「『成長したい』と

 思うことって、

 悪いこと?」

 

 

 

島ネコが聞くと、

カスミは、苦笑いしながら、

首を横に振った。

 

 

 

「悪くないですよね。

 でも、なんだか、

 自分にオッケーが出せないんです」

 

 

 

「なるほど」
 
 
 
 

ネコは黙って、

火を見つめ、

トングで炭を動かしている。

 

 

 

 

「お!ちょうど、沈みますねーー」

 

 

 

夕陽がまさに水平線に

沈もうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「線香花火のような夕陽・・・。

 こんな芸術が見れて、

 私たちは幸せですね。

 

 では、はじめましょうか」

 

 

 

ネコはおもむろにそう言うと、

島で「ウチカビ」と呼ばれる

あの世のお金を1枚取り出し、

カスミに差し出しました。

 

 

 

「ここに、手放したい思いを

 書いてください。」

 

 

これは、島ネコの焚き火バーのサービス。

サヨナラしたい自分の感情を

ウチカビに書いて、

燃やすことで、

新たな自分と出会うための儀式。

 

 
カスミは、噂に聞いていた
島ネコのウチカビを見て、
心が躍り始めた。
こんなワクワクとした気持ちは
本当に久しぶりかもしれない。
 
 
 
「あなたは、何を手放したいの?
 本当に手放したいものは何?」
 
 
 
 
カスミは、じっと考えてから、
満を持したように、
ハッキリと言った。

 

 

「成長を止める自分です。

 私は、本当は、もっと成長したい!

 そして、もっともっと、

 多くの人のお役に立ちたい!

 みんなが笑顔になるためのお手伝いをしたい!」

 

 

 

「はい。では、
 その気持ちをそのまま書いてください。
 
 
 
 そして、
 
 
 『書いた自分も許します。
 書かれた相手も許します』
 
 
 と唱えながら、
 成長を止めようとしていた
 自分の感情を燃やしましょう」
 
 
 
「はい」
 
 
 カスミは、ゆっくり、ゆっくり
 書き始めた。
 
 
 
 これまでずっといい子ちゃんだった自分。
 
 
 言われたことは、なんなくこなせてこれた。
 
 
 厳しい航空会社での研修も乗り越えられた。
 
 
 女性特有の人間関係も、
 面倒なトラブルにはなるべく関わらずに
 やってこれた。
 
 
 営業職に転職し、想像以上ではないけれど、
 数字はまあまあ。
 
 

 普通に言ったら、御の字な人生と言えるだろう。

 

 

 だから、これ以上望んだりしたら、

 バチが当たると思ってた。

 

 

 でも、私の人生、

 

 これでいいのかな?

 

 これで終わるの?

 

 何かが中途半端じゃない?

 

 私の幸せってなんだっけ?

 

 

 ふいに、正体不明の

 

 心の声が押し寄せてくる。

 

 それは、

 

 

 

 「私が求めているのはコレじゃない!

 

  もっともっと冒険したい!

 

  経験したい!

 

  遊びたいんだ!!」

 

 

カスミの魂の叫びだった。

 

 

 

「衣食住そろってるんだから、

 文句言うなよ」

 

 

 

もうひとりの自分が言う。

 

 

その自分に、

 

 

「違う!私が望んでいるのは、

 こんなもんじゃない!」

 

 と魂が叫ぶ!

 

 

 その押し問答が続いていた。

 

 

 その内なる闘いに、 

 

 

 今日、終止符を打ちにきたのだ。

 

 

 

 

 ウチカビの真ん中に、

 2行で書いた。

 

 

 

 

「成長を恐れる自分と

 サヨナラします」

 

 

 

 

そして、そっと、
真っ赤に燃える炭の上に置き、
手を合わせて、
 
 
 
『書いた自分も許します。
 書かれた相手も許します』
 
 
と唱えて、祈った。

 

 

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ウチカビが全て燃えて

灰になったとき、

 

灰の中から白く

文字が浮き上がってきました。

 

 

これが、島ネコの

「焚き火バー」の焚き火の魔法。

 

 

執着していた思いを

燃やして手放せば

 

 

ウチカビの灰から、

その人の内面に改革を起こす

言葉が浮かび上がってくる。

 

 

 

サキコの内面に

改革を起こす言葉とは?

 
 
 

ジワジワと、

文字が浮かび上がってきました。

でも、まだ読めません。

 

 

 

カスミが固唾を飲んで、

 

 

ウチカビの灰を見つめ続ける。

 

 

長い100秒間ののち、

 

 

はっきりと読めるように、

 

 

文字が浮かび上がってきた。

 

 

 

それは、

 

 

「5さいのおんなのこ」

 

 

 

島ネコも、カスミも

予想外の言葉に驚いた。

 

 

 

5歳の女の子?

どういうこと?

 

 

「何か思い当たることはありますか?」

 

 

「いえ、全然、私、子どもいませんし・・・。」

 

 

「5歳の頃の思い出ってありますか?」

 

 

「うーーーん、

 すごくウーマクー(島の言葉でわんぱくの意味)な

 女の子だったと聞いています。

 夕方遅くまで、ずーっと外で遊んでいて、

 いつも、まだ遊びたいのに!って

 ずっと思ってました。」

 

 

 

「そこですね」

 

 

 

 島ネコは、答えが分かってスッキリとした

 表情でニッコリ笑った。

 

 

 

 でも、カスミは分からない。

 

 

 

「どういうこと?

 何?何?何?」

 

 

 

「『まだ遊びたい!』という気持ち。

 カスミさんのその後の人生の中で、

 遊びまくったぞーーー!!

 っていう経験ってありますか?」

 

 

 

「そこ???

 いや・・・・。ないかもしれません・・・・」

 

 

 

「ある意味、私、ずっと優等生だったんです。

 そつなく、なんでもこなせてきて、

 人生、かなりうまくいっていると思ってた。

 

 

 でも、5歳の時の『遊びたい』気持ちを

 満たせてあげれていたかというと・・・。

 完全に忘れていました。

 っていうか、そんなの大事だと

 思った事すらありませんでした。」

 

 

 

「今、『5歳のおんなのこ』と聞いて、

 どう思いますか?」

 

 

 

「うーーーん・・・、忘れてたけど、

 本当は私、

 『もっともっと、遊びたい!冒険したい!』って

 思っていたと思う。

 そして、今、まさに、それをしたいんだと思います」

 

 

 

 

「わかったねーーーーー!!!

 おめでとーーー!!!!!

 はい、お祝いのホットワイン!」

 

 

 

 

いつの間にか焚き火の上で

島ネコが作っていたのは、

スパイスがたくさん入った

ホットワインだった。

 

 

 

 

ホットワインを一口のんで、

 

「ああ、おいしい。

 たまりません。最高ですね〜」

 

 

 

 

グローブ、シナモンの香りが

鼻をぬけて、至福の世界へ連れていってくれる。

 

 

 

すると、突然、ひらめいた!

カスミは、興奮して話し始めた。

 

 

「そっか! 

 私にとって、成長って、

 仕事や勉強をもっともっと頑張るって意味じゃなくて、

 

 

 

 もっともっと遊んで、

 人としての器を広げるとか、

 人生の豊かさを広げるって意味なのかもしれない。

 

 

 

 それだったら、当たり前に、

自分に許可できる気がします!」

 

 

「いいですね〜。

 では、明日から何ができそうですか?」

 

 

 

「まずは、夫と行こう行こうと言っていた

 海外旅行の計画を立てます。

 それから、お休みしていたフラダンスも再開しようかな」

 

 

 

「いいね、いいね。」

 

 

 

「あ、あとは、夫との夜のまぐわいがマンネリ気味だから、

 ちょっと可愛いネグリジェーでも買おうかな?」

 

 

「いいじゃないですか〜!!

 いい、いい!」

 

 

「島ネコさん!

 ありがとうございます!

 なんか、私、力が湧いてきました!

 っていうか、もう明日から楽しみしかない!」

 

 

喜びと楽しみで胸がいっぱいになった

カスミが、焚き火から、

夕暮れ空に目をうつすと、

そこには、

 

 

 

 

 

 

5歳の女の子!!

 

5歳の女の子が夕陽の上で、

両手を広げて、

「ワーイワーイ」って喜んでる!!

 

 

「5歳のかすみさんが、

 やってきて、

 今のかすみさんにエールを送ってくれていますね」

 

 

「あなた自身が、

 

 自分の人生を心から楽しむことで、

 

 テクニックからではなく、

 

 心からの笑顔になれます。

 

 そうするとね、

 

 プライベートでも、お仕事でも、

 

 あなたの笑顔が、

 

 周りの人をもっともっと笑顔にできる。

 

 あなたが人生を楽しむことこそが、

 

 社会への貢献ですよ」

 

 

 

 

 

カスミは、もう、驚きすぎて、

言葉にならなくて、

ボロボロと溢れ出る涙を

ふくことすらも忘れて、

ただ、ただ、夕焼け空を眺め続けた。

 

 

島ネコさん、

本当にありがとうございます。

私、なんだか、今日

生まれ変わった気分です。

 

 

 

 

あっという間に日は暮れて、

そろそろ閉店の時間。

 
 
 
 

ここに来る前のカスミと、

帰り道のカスミは

もう別人のようだった。

 

 

分厚く黒い雲が

ずーーっと心の中を占領していたのに、

 

いまや、その雲はすーーっと流れ、

雨上がりの空のように爽やかで、

心に七色の虹がかかったように、

 

自分と未来への楽しみと、

夫、両親、友人、クライアントへ、

 

そして、何より、大切なメッセージを

時空を超えて届けてくれた

5歳のときの自分自身へ、

「ありがとう」の気持ちにあふれた。

 
 

込み上げてくる

「ありがとう」を

何度も何度も唱えながら、

家路に着いた。

 

 

ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
ありがとう。
 
 
 

あたりはすっかり

もう真っ暗。

 

 

島ネコの焚き火バー。

今日はこれにて閉店です。

 

 

また、明日!ニャー! 

 
 

 

 

 

この島ネコの焚き火バー

「ショートストーリー」は、

継続コース『マイバイブル』

( https://www.akokuro.com/マイバイブル/ )

 

のクライアント様の

実際にあったお話を元にしたフィクションです。

 

 

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